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気持ちは大事

気持ちは大事


 突然目の前に出されたプレゼントの箱に「何これ」と男は言ってしまった。
 不安そうに女は「これ、いつもお世話になってるから。お礼」と唇を噛んでいる。
「お世話しているつもりはない。別に気を遣うことないのに」
 男の言葉に女は悲しそうな顔をし出す。
「どうしたんだよ」
 男は気持ちを理解できずに悩む。
 男にとっては女がいつまでも傍にいてくれるような気持ちでいた。感謝が薄いわけではないがお礼をかしこまって言われるほど尽くしているような気はしないだけに、そこまですることはないと多少は思った。
 女は勇気を振り絞った。特に何かの記念日でもない。何でもない日。誕生日にも何かもらったことはない。会って、話をして、時折食事やお酒を飲んで、体を重ね合わせる。深くもなく、浅くもない。他人ではないが、恋人でもない。そんな関係。
 それでも女は好きだった。女なりに愛していた。
 男が箱を開けるとブランド物のハンカチ。持っている財布と同じブランドで合わせたことがわかった。
「ありがとう。そうか。よく見てるな」
 女の顔がようやくほぐれる。
「ごめんなさい。こんなことでしか、気持ちを表せれなくて。何かの形で伝えたかった」
「謝ることは何もないだろ。気持ちが大事だろ」
 男は自分で言いながら内心引っかかった。
ーーそうか。気持ちは大事だな。
 気持ちを伝えるのも、当たり前のやりとりの中では、なかなかできないものだなと思った。
 男が女の名前を呼ぶと「何?」と見つめてくる。
 何か言葉を言おうとすると何も出てこない。その代わり女の髪を撫でる。
ーーそんなものだよな。
 と、男は少し反省した。

 食事の後のいつも通りの夜の流れ。
 二人しかいない部屋。
 食事中から注意深く女を見ていた男は何度も「私、今日変かな」と心配そうな顔で聞かれた。
 ああ、きっと気にしているのだな、と男は思った。
「あのハンカチ大事に使うよ。本当にありがとう」
 重ねて礼を言ったとき、女の顔に嬉しさがぱっと浮かぶ。
「今日、優しいね」
 女に言われ、それほどいつもそっけなかっただろうか、と男は改めて考え直していた。
 部屋の中の女には不安と喜びと好意が渦巻いている。
 微細な襞の上をうっすら浮かんだ汗が滑り落ちては表情を香らせている。
 一見、いつも通りに服を脱ごうとするが内面には、いつもとは違う澱みが隠されている。
 男は長々と女を抱きしめた。脱衣もせずにきつく、がんじがらめにしてしまいそうなほど。
 女の中から少しずつ澱みが消えていき、涙がすっと流れる。

 いつもより燃えては溶ける女の肌に男は驚いていた。
ーー気持ちは、大事。
 男はその言葉を意識しながら、いつもより丁寧に女を感じさせようと肌を重ねていく。
 いつもより女の粘液が多いことに気がつく。
 男が貫く度に流れる涙の理由を聞かない代わりに、きっとそれは嬉し涙なのだと信じることにした。
 女の中には初めて充実した喜びが満ちていた。怖くてたまらなかった思いが、救われていった。
 何とも思われてないのかもしれない。いきなりプレゼントは迷惑かもしれない。
 言葉にできない恐怖にどうしていいかわからなくなりそうだった。
ーー気持ちが、大事。
 女は果てながら感じた。今は男の気持ちを感じる。勇気を振り絞ってよかったと心から思った。
 男は果てた後の女の茂みの奥を指で撫でる。
 いつもより多く絡みついた液を指で広げると糸を引く。
 こんなに濡れたこと、なかったよな、と思った。
 いつまでも濡れた指を見ている男に「恥ずかしいから止めて」と照れる。
 気持ち一つで、これだけ違ってくることを知った、二人の夜だった。

好きという存在

好きという存在



 小さな駅舎を出たところで、唇をぐっと押し付けられ、頬は触れ合った。
 春近い、雪のちらつく日。
 私から見れば南の島のような気温の場所から五時間もかけてきてくれた。
「こっちは寒いでしょう。コートなんてもう仕舞い込んでいたのでしょう?」
「いいや。時間が取れたら来れるようにと、ここが寒いうちは仕舞わないよ」
 彼の気遣いに嬉しくなって、今度は私から唇を重ねる。
「手、繋ごう」
 私が言うと彼が手袋を脱いで手を繋いでくる。
 手のあたたかさ。好きな人が側にいてくれるぬくもり。
 二人で歩くと荒野も花畑のように感じる。
 変わってしまった香りが彼の匂いに包まれていくよう。

 途中で寄った花屋で花束を買う。
 薔薇の香りが花をくすぐる。彼にぐっと寄り添いたくなる。
 気持ちを抑えながら、今すぐ熱い体を抱きたい欲望を飲み込みながら。
 崖の上から投げ込まれる花束は海に消えていく。
 入り組んで迷宮のように迷い込んだ暗闇の気持ちや、きつく縛り付けられ何が巻きついているのかわからなくなりそうな心に一つ一つ自問自答する。
 今私の光は、彼を好きでいるということ。好きでいられるということ。彼の存在そのものに感謝できるということ。彼がそんな私を理解してくれて、好きでいてくれるということ。
 誰かから好いてもらえるということが、とても嬉しい。
 人一人の存在感が幸せと感じる。
「久しぶりだから、甘えていい?」
 指先の微かな擦れ具合すら心地いい。
「俺も甘えに来た」
「ダメ。私が先」
 私たちはこれから抱き合う。
 深く確かめるように紡ぎ合う。
 いずれは私は彼のものになる。
 そして生きていくことに、精一杯の幸せを感じていく。
 頬に落ちた小さな綿雪は熱で溶けて空に返っていった。
 小さな声を発するようにして、柔らかく溶けた。
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貴美月カムイ

Author:貴美月カムイ
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