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孤独な魂への歌

 Mの「アルジ」だった男へと捧げる。



 小さな頃から一人だった。
 誰も、自分を理解できるものはいなかった。
「いいか、全部報告しろ」
 そうマミには伝えていた。

「お前は、俺のなんなんだ」
「ユウヤ様の奴隷です」
「その男と何をしてきたのか伝えろ」
「はい。ユウヤ様の言いつけどおり、しゃぶってきました。私は部屋に入ってきた男のズボンをすぐに脱がして、しゃぶって勃たせました。すぐに私も感じてきたので、濡れているあそこに入れてもらいました。入れているときだけで三回ほどいきました」
 マミの話を聞いて、渦巻く嫉妬の中に興奮を覚える。
 マミの頭をぐっと押し下げ、ひざまずかせてしゃぶらせる。
 マミは垂れ下がった茎をくちびるで拾うようにして、口の奥へと導く。
 すぐに卑猥な音が部屋中に満ちて、大きく脈打つ張り詰めた茎になる。

 この女もまた、俺と同じものを持っている。

 懸命に俺のものにしゃぶりつく顔を見ながら、孤独の影を感じ取る。
「そんなんじゃいけないぞ!メス豚が!」
 マミはしゃべることもできずに、より懸命に舌やくちびるや顔や手を使う。
 荒れ狂うような怒号を放っていると、自分が落ち着いてゆくのがわかった。
 マミは手を俺の袋にあて、揉みながら、片方の手は足をさすっている。茎は喉の奥に当たっていて、涙を流しそうなほど苦しそうに口内へと導きいれているのがよくわかる。
 愛する価値のある女だと思った。
 自分の色もなく止まった時間のような感覚の中で、不思議に惹かれるものをこの女に感じていた。
 射精し、一滴も残さず飲ませた後、すべての怒りが流れ出て、心の中の「色のなく止まっているもの」が、かすかにあたたまるのを感じた。
 まるで何も感じなくなった凍傷の指を雪にひたすらこすり付けてあたためることにも似ていた。

 お前にもし、なにがあっても、俺が受け入れてやる。

 いつだかマミに伝えた言葉を思い出した。
 行為が済むと、なぜか過去をマミに話したくなった。他のどの奴隷どもにも話す気すら起きなかったのに、この女にだけは話したいと思った。
 優しく抱きしめながら、穏やかな心でマミに話す。
 マミは楽しいのか、ニコニコしながらいつまでも聞いているので、ついつい俺も話してしまう。
 俺が自分のことを知って欲しいと思ったのは、この女が初めてだった。
 父親がいないこと、母親はスナックで勤めながら、日中もおらず、一人でずっと過ごしてきたこと、少年院の話、友人との話。
 時間はあっという間に過ぎ去っていった。
 マミに自分のことを聞かせるのが、楽しみで、もっとこの女を「俺の奴隷」にしてやりたいと思った。
 この女なら、本当に俺のことを理解できると、どこかで感じていた。
 たくさんの男と交わらせ、この女がもっともっと孤独で貪欲な奴隷になる姿を想像していた。
 その貪欲さが、俺の心の中の何かを埋めていく、そんな気がした。

 お前との未来を、どこかで夢見ていた。

 しかし、ある日を境にして、どこかマミの様子が違ってくるのを感じていた。
 前のように、この女から少しずつ孤独が消えてきているのがわかった。
 それはいつも通りにしているマミの内側から自然に出てきているものだった。
 俺の持っている、俺と合わさってきた、同じ色だったマミとは違う。マミの中には誰かがいる。しかも俺が知っているような快楽だけに従うような存在ではなく、いままでとはまったく異種のもの。直感的にそれを感じた。
 何度か突き放したことがある。
 奴隷として、命令に従わず、自分勝手に行動することを何度も叱責し、捨て去った。
 だがマミはそのたびに泣きながら許しを請い、俺の元に戻ってきた。

 俺が愛する唯一の女。

 俺は深夜にマミに電話をかけ、俺のところに来るように言った。
 マミは出会ったときに不安げに俺を見つめる。
 俺がいつもと様子の違う電話口だったことと、いつも出会うたびに行われる調教。どの不安かは俺にはわからない。
 だがどんな不安を隠しているのか、俺は暴き出してやると思った。
 俺はマミのケツをまくって、後ろの穴へと浣腸剤を突っ込んでやった。
 嫌がり抵抗を見せながらも従うマミの姿は、俺の知らない何かで満ちていた。俺が感じたこともない、俺がまったく触れたこともない、何か。孤独ではない何かとしか俺には例えようがなかった。だが、幸せそうなのはわかった。
 マミが少しずつ苦しみ始める。
「はっ…あうっ…」
 言うまでもなく、俺は真美の様子を見る。
「トイレに…トイレに行かせてください」
 マミが我慢しきれずに俺に頼む。
 俺はマミの中に誰がいるのか聞く。
「お前の今付き合っている男を全部言ってみろ」
「ユ、ユウヤ様に言われた男と、チャットで知り合った男やメールしている男が数人…お話している彼氏…」
 俺はマミの姿に苛立ってきた。違う。お前を本当に幸せにしている存在はなんだ。お前が本当に惚れ込んでいる男は誰だ。お前が惚れ込むほどの男は。お前を心から幸せだと思わせた男は。
「お、お願いです。トイレに、トイレに行かせてください。あ…ああぅ…」
 マミの瞳がもうろうとしてくる。マミの体も限界に来ているのはよくわかった。
「お前、まだ隠している男がいるだろ!誰だ!そいつは誰だ!」
「そ、そんな人はいません。ほ、本当です…だから、だから、と、トイレに、い、いか、いかせて…あ、あぅぅ…」
 マミに苦悶の表情が満ちてくる。だが、俺の心はどこかでいつもとは違う満たされないものを感じていた。もうお前は俺の奴隷じゃなくなったんだな。
「いや、いるはずだ。誰だ!メス豚め!吐け!」
 ケツをぶち、よりマミを追い詰める。
ケツがはじけたような音が一度響き、ついにマミが隠していたことを吐く。
「います!…うっ、うぅ…」
「会ったのか!」
「あ、会え、会える距離じゃ、ないんです…」
「お前そいつのことが好きなのか」
 もういつものような怒りはどこにもなかった。ただ、マミにその気持ちを確かめたいと思っただけだった。だが、いつも通りの俺らしくしたかった。
 マミは俺の質問に苦しみながらはっきりと言う。
「好きです!」

 お前が、そこまで想う男か…

 その後の言葉は、俺にとって重要な言葉でもなんともなかった。
 マミに「お前は奴隷として俺に仕える資格すらない。他の奴隷を探す」と伝えたことも、俺にとってはさほど重要でもなかった。いつも通りの俺。いつも通りの生き方だった。
 マミが液まみれの便を垂れ流す音をトイレで聞く。

 小さな頃から一人だった。
 誰も、自分を理解できるものはいなかった。
「いいか、全部報告しろ」
 そうマミには伝えていた。
 報告しなければ、あらゆる罰を与えた。
 だが、もはやお前は孤独から解放された。

 プレイが終わり、いつも通りの自分がいた。
 切ないとも、悲しいとも思わなかった。
 愛した女が目の前にいる。
 その女を目の前にして、俺は俺なりの気持ちを伝えた。
「幸せになれよ。マミ。お前はお前の幸せを掴んでいけ」
 驚いたようにマミは俺を見た。そんな言葉、一度もかけなかったな。言うはずのない言葉だからな。
 お前はもう俺とは違う場所にいる。だから、いいんだ。行けばいい。

 俺の、愛した女。

 マミの帰り際、俺が生涯で初めて、心の底から人へと思った気持ちを心に抱えて、言葉を言った。
「ゆっくり、おやすみ」
 自分でも不思議だと思えるほど優しい気持ちだった。
 マミは瞳を潤ませながら、俺へと言った。
「おやすみなさい」

 次の日、空は晴れ渡っていた。
 どこまでも透き通るような青を見ながら、たった一度だけ、マミの姿を想った。




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