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キャンドルナイト scene1 「雪の降り終わった後に」

切げに、雪は笑っているようだった。
ふわふわと街の暗闇を縫い、オレンジ色の街灯に照らされ、しんしんと降り続いている。
白い雪は、冷たさの中でほほえんでいる。
手を前にかざし、指先や手のひらに落ちる、ひとひら、ひとつぶを見守り、溶けて消えていく静寂に、彼方まで消えていきそうな心を溶かす。
忘れていたような、君の白い素肌が重なる。
深夜の車道の真ん中を歩きながら、ワインに酔った瞳を夜空に向ける。
街は眠っていた。
星々すらも眠り、その安らかな吐息を落とし雪へと変えているのだろうかと考えながら、寂しさの中でふっと遠くを見つめる。
きっとあの一番輝いている星のもっと奥の輝き。
君の素肌を指先でなぞりあげるように、夜空にかざす。
そして、唇へと指先をあわせ、投げキッスとともに手を開いていく。
今は遠い君は、君の愛した人とともに幸福な時間を奏でているのだろう。
車道の真ん中で、ほとんど痕もない雪の上へと寝そべる。
きっと車が来たら、赤い血を散らして苦しんで死ぬだろう。
瞳に次々と落ちる白い涙、冷たい雪の吐息。
思い出すのは凍りついた風に消えるいくつものぬくもり。
肌が寒さで張り詰めてくる。
悲しみはもう遠くへと行って何もかも虚しく響き渡っている。
澄んだ響きは雲の向こう側、きっと月の彼方まで届くだろう。
手を伸ばして、雪を掴む。
掴みきれないほどの雪が、体を埋めていく。
瞳をゆっくりと閉じて、力なく手を落とそうとした時、手袋の柔らかな感触に握られる。
見知らぬ女性。
自殺じゃないんだ、ただこうしていたかっただけなんだ、死ぬ?いいよ、死んでも、どうでもいいじゃないか、あんたには関係ないことさ。 酔っ払っているよ、酔って忘れたいことだってたくさんあるさ。
いつまでもナイーブでセンチメンタルな自分を隠さず独り言のように打ち明ける。
雪の冷たさだけが背中に染み渡って、彼女の声は遠くから聞こえてくるようで、ただこの握られた手の力強さだけが、この世界で確かなもののように感じた。
一緒に飲まないか?まだ飲み足りない。白ワインがいいな。あなたの素肌みたいに澄んだ白を飲もう。あなたの手はあたたかいね。 僕は冷たいままあたたかくなることがない。
彼女は手袋を脱いで、今度は素手で手を掴んで、あなたのほうがあたたかい手だよ、と言う。
この手のぬくもりだけでしか、僕は僕の真実を示すことができない。ただそれだけじゃあまりにも心もとなくて、きっと誰も信用してくれない。もぬけの殻さ。僕は本当は誰だったのか、最愛の人を失うと、こうまで自分が自分じゃいられなくなるのか。たった一つだけ命だけ残された気分さ。最後のぬくもり。誰でも生きている限りはあたたかい。 それだけ最後に残されている気分だよ。たった一つだけ残されたこと。それすらも、どうでもいいことのように思えてくる。命を支えるには、きっと心の強さが必要なんだよ。
怪訝そうな顔をするでもなく、彼女はほっとするような瞳を向けて言う。
でも、あなたの瞳はとても切なく輝いて、あたたかそう。
彼女の声は雪の舞うこの景色の中に響いて、溶けていきそうだった。
トラックが彼女を避けて通り過ぎた時、ほら、私がこうしていなきゃあのトラックにひかれていたよ、と言う。
やっぱり、死ぬつもりだったんでしょう。 見知らぬ親切な人。他人のことを心配してくれる人。
自然と笑いがこみ上げてきて、鼻でふふふと笑ってしまい、彼女は首をかしげた。
命なんて、何を大切にすることがあるのか。
そう一言もらした時、彼女はぐっと私を引き上げて、車道の真ん中で私を強く抱きしめ、飲もうよと耳元で囁いた。
踏みしめる雪の音はぎゅっぎゅとすれて、あいかわらず車道の真ん中を歩く二人の手は握られたままで、冷たくなりそうな指先を守るように、彼女の素手を包んでいた。 夜、車通りの少ない車道の真ん中を歩くちょっとした冒険。
初めて会った二人、命のあたたかさだけが、雪を溶かさず語らえる気がしていた。
白ワインを両手に、お酒強いんだねと言う彼女にほほえみ、部屋へと転がり込む。
片付いた部屋、白いシーツの引かれたベッド、テーブルの上にはサンタクロースとトナカイの小さな置物。
クリスマス、近かったんだなと改めて思わせる。
ワイングラスとかなくて、コップでごめんねと持ってくる彼女の指は白くてすらりと伸びている。
白ワインをコップに入れて、ああそう言えば、と自己紹介をしあう。
外の冷たさから少しずつ開放されて、部屋のあたたかさに染まっていく。
寒いでしょう、今ストーブつけるけどあたたかくなるまで時間かかるから、コートは着ていて。
初対面の男を一人暮らしの部屋に入れて、よくそこまで気を使えるなと少し感心していた。
随分と苦労したの?と聞く。
え?どうして?と不思議そうな顔をする彼女。
気の使い方が、玄人。
なんて言うと、なにそれー、と笑う彼女。 普通だよ。特別なことしてない。
さりげなくできる気配りに冷えた心が打たれる。
乾杯をして僕はぐっと飲み干す。 酔いが足りない。辛い気持ちは忘れ去りたい。
それを何も言わずに黙って見て注いでくれる彼女。
彼女はちびりちびりと飲んでは僕の様子を見る。
この人も、僕と同じように孤独を抱えているのだろうか。
この人も、僕と同じように切なさに苦しめられているのだろうか。
どうして僕を助けてくれたのだろう。
女の子一人の部屋で、男を入れて何も怖くないのだろうか。
ワインボトルが二本目にさしかかったとき、愛している人がいたんだ、と言った。
私も、とあなたは言った。
愛していた人は今は他の人と一緒にいて、幸せな時を過ごしているよ。僕は彼女といた時間が人生のすべてだったような気持ちなんだ。本当に愛していたんだ。
そして彼女の事を聞く。
彼女はグラスを置いてうつむく。私の愛している人は、ここ。
そう言ってポケットの財布の中に挟まっている写真を見せてくれた。
あそこにも、と机の上に飾ってある写真立てを指差す。
もう、こうしてでしか会えないから、彼のほうがずっと年上だったけど、今年、私が年上になっちゃった、それでもまだまだ彼よりもずっとずっと子供で。
えへへと言いながらほほえむ彼女を、強い人だねと言ってはいけないのだろうと感じた。 でも、僕よりはずっとつよいひとだ
きっと彼女は、割れてしまいそうな思いを、大事に大事に抱えてきたのだろうから。
ふと立ち上がり、カーテンの隙間から外を覗く。
空の雲は晴れて、今は満月に近い月が見える。
部屋の電気を消そうよ、外の月が綺麗だよ、カーテンを明けて、月を見ながら話そうよ。あの人が亡くなったのは満月の日。寂しそうでもなく、思い出に浸っているようでもなく、もう彼女の一部になっているかのような自然さで、悲壮感ではなく新しい幕開けのようにカーテンを開ける。
部屋は月明かりに照らされ、白ワインが青く染まる。
樹氷が見えて、街は静寂に凍りついている。
部屋があたたかくなってきて二人ともコートを脱ぐ。
見て、綺麗だよ。
そう言う僕の傍に寄ってきて月を見上げる。
僕はどうしても聞きたくなる。見知らぬ二人の唯一の共通点。
あなたの話を聞かせて、愛しているその人のこと。
電線に積もった雪が、はらりと落ちて痕のない白い歩道に傷をつける。
私の愛している人はね……優しい人だったよ……。
一緒に行った旅の話、大切だと思った瞬間、一生懸命思いやってくれたこと、愛そうと自分なりに努力していったこと、辛いことも苦しいことも嬉しく思えたこと、最後の夜のこと。
彼女の話を聞いているうちに、知らず知らずのうちに肩を抱き寄せていた。
微細な心のざらつきまで撫でるようにわかる気がした。彼女の話を聞く度に、自分が辿ってきたことと、これから辿らなければならないことが見えてくる気がした。
彼女の目は、正直な目をしている。嘘をつかない目だと思った。
不思議な気持ちになる、懐かしい優しさに触れているような。
彼女が僕の瞳を覗きながら、唇は近づいていき、静かに触れる。
本当に、触れる程度のくちづけで、僕たちは離れる。
いけないことをしてしまったような、今してしまったことを忘れてしまいたいような、そんな小さな気まずさに包まれて、僕たちは無言でワインを飲み始める。
両手でグラスを包む彼女の姿は何かを恐れているようで、今すぐ僕は彼女を抱きしめなければ震えてしまうのではないかと思うほどにか弱く見えた。
今も。
そう言いかけた彼女に、え?と小さく聞き返す。
今も愛しているの?その人のこと。
僕は、たぶん、としか答えられなかった。
正直、何が愛情なのかすらもわからなかった。 それは、結果として別れてしまったことの負い目。
きっと、自分勝手な愛情さ。
そう付け加えて、ワインを飲み干し、自分でコップ満杯に注いだ。
月の光が彼女の指先を浮き立たせるようで、白い肌が悲しみを慰めていくようで小さな誘惑を感じた。
男の人なのに、指が綺麗。
僕の手をとり、なでて、指先を絡める。
大きいね、やっぱり、私の手、小さい。
そう言って、僕と手を合わせる。
手のひらの中にすっぽり収まりそうな彼女の手、そんな気がした。
やっぱりあなたの手は、あたたかい、と彼女。
あなたの手は、冷たいね、と僕。
あなたの手の甲にキスをする僕。
僕の手の甲にキスをする彼女。
そして彼女は僕の中指の先を、少しだけ口に含んで舐める。
どうしてだろう、それだけで、あなたのことをあたたかく感じるなんて。
まるで大切なものを手に取るように、僕の手を扱う。
唇を離して、僕を見つめる。
月明かりの部屋で、また唇が近づいて、今度はしっかりと繋がりあう。
触れた瞬間溶けてしまいそうな、怖くなりそうなほどのやわらかさで。
求愛しあう鳥のように、優しく唇をついばみあった後は、互いの小さな吐息とともに舌を絡め合わせる。
探り合うように舌先を舐めあい、そして求め合うように舌を奥まで絡め合わせる。
静かな部屋にこだまするように、舌先が絡み合い吸い合う音が響く。
彼女の服の中に手を入れ、おへその横をなぞりあげると、あなたは甘い声をあげる。
彼女も僕の服の中に手を入れ、冷たい手を胸元にまではわせてくる。
まるで僕の肌にしっとりと吸い付くような彼女の手は、僕の衝動を誘い込むようだった。
ねえ、いい?と僕のあそこへ優しく触れながら彼女は言う。
いいよ、と僕が言うと、彼女はベルトを外し僕のズボンを下げる。
硬くなっている僕のものを手のひらで包み込みながら、彼女は嬉しい、と言う。
僕が彼女の頭をなでると、うっすらと優しくほほえんで、僕の下着の中にあるものを舌先で確認していく。
それは求めてするようなものではなく、ひとつひとつ確かめて、包んでいくように。
やがて先のほうを口に含みながら、ソフトクリームを舐めとるように舌を這わせる。
舌使いはとても優しくて、壊れ物を扱うようで、消えてしまいそうなものを慈しむようで、僕の瞳がなぜか熱くうるみそうになっていくのを覚えた。
僕は彼女を止めると、嫌だった?と聞くので、違うんだ、抱きしめさせてくれ、と言って彼女を強く抱きしめてから、ありがとうと告げた。
そして彼女の服を脱がせた後、かわいらしく立っている乳首へキスをしながら愛撫をした。
僕の頭をぎゅっと抱きしめ、髪がくしゃくしゃになるくらい撫で回して声をあげる。
乳首へキスをしているだけなのに、彼女は体を震わせながら感じてくれる。
まるで星の旅、あなたの中の輝く星を見つけながら、ひとつひとつ愛撫していきたい。
この小さな夜に。 たった一つ繋がり合った孤独を架け橋を渡り、心を交わすように。
彼女のすべるようなきめの細かいお尻を撫でながら、指先を太ももの奥のやわらかな茂みの奥へと滑り込ませると、すでに潤んでいた。
優しく割れ目に沿って指先をなぞりながら、彼女へとほほえむと、強く僕へとくちづけをしてくる。
求めるように、むさぼるように。
合図をすることもなく、二人とも自然に重なり合う。
まるで隣同士だったジグソーパズルのピースのように。
僕のものは彼女の体温に包まれ、白い肌は僕に吸い付くようにしっとりと汗ばんで甘い香りをはなつ。
彼女の中は、やわらかくて、滑り込ませても、まだきつく抱いてくるようで。 肉の一部が熱く溶かされていくのを感じる。
ゆっくりと腰を突き入れながら、彼女の微かな反応を大切にしていく。
手を握り、彼女の指先が時折強く握り返してくるのを感じ、ぐっと突き入れたまま腰を回すと潤んだ瞳でキスをせがんできた。
硬く張り詰めた乳首を吸い上げ、白く透き通るような乳房を舐めあげると、彼女の中に入っている僕の肉は締め付けられた。
外の冷たさが体に残って分、あたためあいたかったけれど、激しくしてしまうと目の前のすべてが雪の結晶のように脆く崩れてしまう気がした。
最後まで、優しく、丁寧に扱った。毛糸を編んでいくような積み重ねで、高まっては燃え溶けていくようで、何度も何度も彼女は体を震わせた。
優しい時間をどれほど過ごしたことだろう。
酔いも冷めぬ間に、オレンジ色の雲はうっすらと彼方を染めている。
コップの中の白ワインは、薄暗い朝日に染まり出している。
僕と彼女。 まだ、繋がりあっている。
きっと眠り、覚めてからも、もっとたくさんのことを語り合わなきゃいけない。
もっと彼女のことを知りたいから。
僕が強く突き上げると、彼女は大きく体を痙攣させながら、僕の体を強く抱いた。
彼女の鼓動が静寂を破ろうとする朝の空間を通して、僕の胸に響き渡っていた。
命を絡めて、今僕と彼女はこの部屋にいる。

エロインフルエンザ


 世では新型インフルエンザが流行っていた。
 病院や政府や個人の対応むなしくウィルスは広がっていた。
 感染していくうちに、変種となって、今よりも拍車をかけて広がるのではないかという専門家の見方もあり、人々は目に見えない脅威に恐怖していた。
 フミヒロの住んでいるすぐ隣の地域で新型インフルエンザの患者が爆発的に多くなっていたので、時間の問題かと思っていたら、ついに近くで感染者が出たという速報が駆け巡った。
 それを番組のテロップで見ていたフミヒロは、
「そう言ったって、どうすりゃいいんだ」
 と、一応買っておいたマスクを見ながらつぶやいた。
 今日はちょうど休みだが、明日からまた会社が始まる。いやがおうにも人ごみの中に入っていかないといけない。マスクをつけたり、うがい手洗いで限界があるとしたら、もう手の施しようがない。
 フミヒロは時計を見た。
 彼女のマオを部屋に呼んでいたが、もしかしたら大事を見て来ないかもしれない。
 インターホンが鳴り、ドアを開けるとマオがいる。
「遅かったな」
 とフミヒロが言うと、マオはぼんやりしている。
「あ…………、なんか、ぼんやりする…………」
 マオの言葉に「大丈夫か?」とフミヒロがおでこに手をあててやると、熱っぽい。
「おい、もしかして、インフルエンザかかったんじゃないだろうな?」
 マオはうつろな目をしながらフミヒロを見つめてから、ふらふらと部屋の中に入っていく。
 卓上テーブルの前にぺたんと座り込むマオを心配して抱きしめてやると、マオが潤んだ目で見つめてきた。
「フミヒロ…………あのね……なんだか体がすごく熱いの…………」
「それインフルエンザだろ。すぐ病院に…………」
 とフミヒロが携帯電話を取ると、マオが静止する。
「違うの…………そうじゃないの…………熱いのは熱いけど、違うの……」
 マオの息が荒くなり、瞳が完全に潤んでいる。顔も赤く声も少し苦しそうだ。これは完全に症状が出ているとフミヒロは思った。
「違うってなんだよ。救急車……」
 再度携帯電話を取ろうとすると、マオがいきなりフミヒロを押し倒した。
「違うの。違う……体が火照ってもう濡れてるの。我慢してたの。エッチしたいの」
「え?なんだそれ?」
 マオは戸惑うフミヒロのズボンを荒々しく脱がせて、パンツの上から股間をまさぐりその上から唇で愛撫する。
「ああ、いやらしい匂いするよ。これが欲しかったの。しゃぶるよ?」
 マオの見せたことのない大胆さに戸惑うフミヒロだったが、心配よりもすでに興奮のほうが勝っていた。
 すぐにフミヒロのパンツを下ろしたマオは、そそり立つフミヒロのそれを覆いかぶさるようにして口に含んでいった。
 マオがうっとりしながら口に含んだものを吸い上げ、また飲み込む。
 いつもと明らかに違う。いつもなら、周りを舐めるようにして、たどたどしくキスしていくマオが、今日は急に深々とフミヒロのをしゃぶっている。フミヒロは一度も今日のようなことをされたことはなかったので、マオのディープスロートに陰茎が飛び上がっていくような快感を覚えていた。
「マオ、そんなにしたら出ちゃうよ」
 マオはおいしそうなものでも食べているかのようにうっとりとフミヒロを見つめ、吸い上げながらチュポンと音を立てて口から陰茎を離す。手は一時たりとも離そうとしない。
「ねえ、いいでしょ。精子の匂い嗅ぎたいの。飲みたいの。いいでしょ?」
(嘘だろ?)
 フミヒロは思った。さすがにここまでくるとおかしい。マオは一度も口内での射精を許したことはなかった。いつも「気持ち悪いから嫌」と言って、頑なにフミヒロの願いを断ってきた。それが、今日は自分から「飲みたい」とまで言ってきた。
 フミヒロはふとインフルエンザのニュースで「変種となって感染する危険性」を専門化が指摘していたのを思い出した。
(まさか、インフルエンザの変種で感染するとエロくなるとか?ええ?でも実際信じられないことが起こっているわけだし……)
「んもう……何考えてるの?もうダメ。こんなにいやらしくピクピクしてるんだから、食べちゃうもん」
 しびれを切らしたマオがまたフミヒロのを深々と咥えこみ、いやらしい音を立てて激しくしゃぶりだしている。
「そ、そんなに激しくしたら、もう、ダメだ……」
 下半身に力を入れて射精を免れようとするフミヒロだったが、ついにドクドクと勢いよくマオの口内へ射精してしまった。
 マオは髪を片手でかき上げて、口をつけたまま、ごくりごくりとのどを鳴らしている。
(本当に飲んだ……信じられん……)
 何が起こったのかはわからないが、何かがマオに取り付きでもしない限り、こんな別人になるわけがない。フミヒロの疑問は深まるばかりだったが、何はともあれ滅多にないチャンスだ。ここはマオとのエッチを楽しもうと思った。
 マオはまだ陰茎を口の中に含んだまま亀頭をゆっくりと舐めまわしている。そして微笑みながら言った。
「ねえ、まだ硬いよ……奥まで欲しいよお……入れていい?いっぱい腰振りたいの。上に乗っていい?」
 フミヒロもだんだんと調子に乗ってきて、遠慮しないでおこうと思った。
「お、おお。入れていいよ。俺もいっぱい入れたいよ。じゃんじゃん突いてやるよ」
「んふっ。嬉しい。じゃあ入れちゃうよ。もう濡れ濡れなの」
 マオはスカートからパンティーを下ろしただけで、すぐに腰を突き立ててきた。いきなり腰を下ろして、何かが突き抜けたかのように一度のけぞり、それからゆっくりと腰を振り出した。
「ああ、いいの、凄い硬くて奥まで来る。ねえ、私、いっぱい出ちゃうのわかるの。感じすぎちゃう。いい、いいの。ああん」
 いつもの五倍くらいもだえているマオを見て、フミヒロの興奮も絶頂に達していた。
 ヌチャヌチャと音を立てている接合部が、より激しく音を立てだす。
「いい。もういっちゃいそう。ねえ、一緒に、一緒に、いい?いい?」
 マオが限界を告げだし、その前から限界に堪えていたフミヒロは一気に出してやろうと思った。
「わかった。一緒にいくよ?」
――いくー!
 同時に絶頂に達した二人は抱き合い体を震わせていた。しばらく静かに抱き合った後、少しだけ二人は眠った。
 マオが寝ているフミヒロをゆらす。
 頭のぼんやりとするフミヒロにマオは言う。
「私、なんだか調子悪いみたいだから家に帰って安静にしているね」
「わかった」
 マオが帰った後、フミヒロが時計を見るともう午後八時を回っていた。
「こんなに寝ていたのか……」
 お腹がすいた。しかし、冷蔵庫の中にはもう何も入ってなかった。近くのコンビニに弁当を買いに行こうかと思い、立ち上がると体がふらついた。
(疲れたのかな?なんだか体が重い。念のためマスクつけていくか)
 ふらふらとしながらコンビニで弁当を買うと、体が火照っているのに気がつく。
(風邪?熱が出てきたのかな……ぼうっとする)
 フミヒロはコンビニから出る時に、先にコンビニから出た、会社帰りの女性らしき存在に目が釘付けになった。
 タイトスカートが桃のようなヒップラインを浮かび上がらせている。それが右に左に水にでも浮いているかのように揺れているのを見つめていると、フミヒロはだんだん勃起してたまらなくなってきた。
 どうやら帰る方向は一緒らしい。コンビニと自分の家の間には公園があり、もしそこを通るなら、とよからぬ期待をフミヒロはしていた。
(何を考えているんだ俺は)
 しかし止めることができない。
 女が公園へと入っていくとフミヒロはいよいよ興奮してきた。
 明かりも多くない薄暗い公園。茂みの奥に引きずり込めば、できないこともない。
 股間は痛いほどに勃起して、抑えるのが精一杯なほどだった。
 フミヒロはぼんやりとし、めまいにも近いものを覚えながら、ゆれるヒップを自分が荒々しく掴んで、その奥のいやらしい穴へと自分の勃起したものを入れることを考えた時、頭の中で何かがはじけた。
 フミヒロは女の体を持ち上げて茂みの奥へ放った。
 一瞬のことに何が起こったのかもわからずに絶句している女の唇をマスクをずらし無理やり奪った。
 イヤイヤと首を振り、小さな悲鳴と激しい抵抗を見せる女のスカートの中にフミヒロは手を入れ、ショーツをずり下げる。
女は激しくフミヒロを両手の拳で叩こうとする。
しかししょせん女の力。フミヒロは気にすることもなく、勃起したものをねじ込んだ。
「いやあ!」
 大きな声を上げて叫ぶ女にかまわず腰を振り続けるフミヒロ。激しい力と腰の振り方に女の抵抗すらか細い。一気にフミヒロが射精しようとするところ、フミヒロの顔に懐中電灯の光が当たった。
「何しているんだ!」
 その声に、フミヒロは女の中から陰茎を出し、外に向かって勢いよく射精してしまった。
「お前!最近ここら辺に出ていた強姦魔だな!」
 懐中電灯を当てた人間は警官だった。それも男二人組みだ。しかも射精の瞬間を見られている。下半身を情けなく出した姿では確実に言い逃れはできないはずだった。それにマスクもつけていかにも怪しい。
「え?あっ……」
 言葉に詰まるフミヒロはあることに気がついた。あれだけめまいに近いほどぼんやりしていたのに、今はすっきりしている。
 警官に取り押さえられるフミヒロ。マスクをはがされ顔に懐中電灯を当てられる。
 もう一人の警官が「殴られたとか、ひどいお怪我はありませんか?今すぐ救急車を呼びましょう」と女を抱き起こしていた。
 あまりにも頭がすっきりしているフミヒロは思った。
(もしかして、変種のインフルエンザが治ったとか?だったら俺の今の行動はインフルエンザのせいだ)
「おまわりさん!」
 フミヒロの言葉に警官は「なんだ!」と怒号交じりに答えてくる。今にもフミヒロは手錠をかけられそうだ。
 フミヒロは必死に弁明しようとした。
「違うんだ!俺は病気なんだ!」
「そうだろうな。お前みたいな変態は病気だよ」
「違う!違うんだ!」
「何が違うんだ!」
 フミヒロの抵抗に警官は苛立つ。たいてい、この手の犯罪者は言い逃れをしようとするので、警官も早く署に連れて行きたかった。
 フミヒロは最後まで抵抗しようとした。
「エロくなるインフルエンザなんだよ!」
「何を馬鹿なことを言っている」
「いや、本当。治った!治った、治ったんだよ!だから、俺、もう大丈夫!」
「治ったのなら、ちゃんと自分が犯罪をしたという自覚があるんだな。強姦罪ね。現行逮捕するから」
 手錠をかけようとする警官とまだ抵抗しようとするフミヒロの前に犯された女が赤い顔をしながら寄ってきた。目が潤んでぼんやりとしている。
 フミヒロをじっと見つめる女。そしてぼそりと言葉がこぼれた。
「はあ……よかった……」
 警官とフミヒロは同時に「え?」と聞き返した。
 女はめまいを覚えたようでふらりと倒れこみ、ひざまずくような格好になっていたフミヒロの頭を寄りかかりながらぎゅっと抱いた。
「ぶはっ!」
 フミヒロは顔に女の胸の感触があることにどうしていいかわからなかった。やわらかい。しかしもう興奮はしない。
 女ははっと気がついたようにフミヒロから離れ、
「いや!よくない!」
 といきなりフミヒロの頬に張り手を食らわした。
「ぶはっ!」
 フミヒロは張り手に吹く。
 女の横にいた警官が女に聞く。
「よくない?」
「いや、いいの。よかったの。とっても……よかった……はあ……」
 潤ませた瞳でじっとりとフミヒロを見つめる女。遠くからサイレンが聞こえてくる。
 フミヒロは女の様子を見てなおも弁明しようとした。
「おまわりさん。あの、あれ、ほら、俺抵抗ついたからもううつらないんだよ。でもほら、あの女の人、絶対エロインフルエンザだって。感染するんだって」
「いい加減にしろ!話は署に行ってから聞くから」
 フミヒロは手錠をかけられた。
「チクショウ!まおー!お前のせいだー!」
 ありったけの声でフミヒロは叫んだ。

 そのころ、マオはくしゃみをした。
 体温計は平熱。
「熱はないみたいね。でも風邪かもしれないから今日はゆっくり寝よう」
 マオは部屋の電気を消した。
 同じころ、今夜は眠れない男が取調べを受け、救急車で運ばれる女はしっとりと股間を濡らし、先ほどのことを思い出しながら快感に体をガタガタと震わせていた。
(どうしよう。あんなされ方、癖になっちゃいそう。またしたい……許してあげようかな)
 救急車の中でその様子を見ていた隊員が女の体温計を見て言う。
「熱っぽい。インフルエンザかもしれませんね」

テーマ : 官能小説
ジャンル : アダルト

先っぽだけ入れさせて

 一途な想いが狂気へと変貌することは珍しいことではない。そして叶えられぬ想いも狂気へと変貌することは珍しいことではない。しかし、叶えられた想いが狂気へと変貌することは考えがたいものだ。
 真壁一太は一途な男だ。一途過ぎて一度はまり込むと他のことが見えなくなるくらい一途だ。大好きな人のことを考えて雨の日も傘を忘れ、物思いにふけるあまり目の前のバスに乗るのでさえ忘れるくらいなのだ。一太は自分の想いを「純心」と言うが、一太以外のものは「馬鹿」と言う。
 一太の純心さは数年続く。想いが終わる時は「諦める」のではなく、「人以外のものに興味を持つ」時だ。例えば異性を愛した後に急にマラソンを始める。その後マラソンを止めて異性を好きになり、その後骨董品、という具合だ。他人から見ると「人に飽きたか集中力が途切れた」ぐらいにしか見えないのだが、一太の意識の中では「飽きた」のではなく「好きになりすぎて前のことを忘れた」となっている。
 その一太も世界各国の占い用具を集めることを止めて今は一人の女性を好きになっている。相手は有名私立女子大三年生の夷隅聖子。二十一歳。一太の年齢は三十九なのだから聖子の友達たちにしてみれば「えー?ありえない。キモイよね」で一蹴どころか何度も足蹴にされているようなものだった。
 しかしバスに乗ることすら忘れるような一太。周囲の声など聞こえようはずもない。聖子はそこらの成金とは違い由緒ある家系で育ちがよく、品のない言葉を使う習慣がまったくないので、一太の存在に気がつこうと堂々と古風に手紙をもらおうと「年齢の差もございますし、わたくしのような若竹にも劣る弱齢で浅学の身、あなた様のように立派に社会でご経験をつまれた方のお傍でつまらぬお話申し上げるのもおこがましいことでございますから、なにとぞお釣りあいの取れた、あなた様に相応しい方と人生を歩んでいかれたほうがお幸せかと存じます」と丁寧に返礼するのであった。この手紙の内容を簡略化すると「年が釣り合わないから諦めてくれ。趣味も話も合わない」ということなのだが、一太は意に返さない。
 一太がどこで聖子と知り合ったかというと、私立大学が管理運営している大学構内の大きな公園があり、公園管理運営士である一太は公園内の植物の手入れなどの仕事をしている。そこで仕事中の一太が友人と昼休みに手作り弁当を食べている聖子を見て一目惚れしたのが始まりだった。
 大学が大きな公園の管理するのは珍しいが、それだけ歴史のあるお嬢様学校といっていい。もちろん創立当初からの歴史のある公園だからこそ管理も徹底している。一太の仕事は評価されていた。そして歴史がある有名私立お嬢様学校だけにお金持ちの令嬢ばかりなのだが、聖子は立ち振る舞いだけでも他の女性と違って蘭の花のように栄えて見える。群を抜いていた。
 一目惚れしたのは一太だが最初に声をかけてきたのは聖子だった。花に興味があるようで、一太の手入れしていた花の名前を聞いてきたのだ。花とは違った淡く甘い匂いがして、声のほうへと振り向くと憧れのお嬢様が立っているのだから体中の血管が驚きと喜びにあふれ詰まって心臓が止まるかと思ったほどだった。一太は手入れをしていたルピナスの説明をする。日本名でノボリフジとも言われるルピナスはフジの花を逆さにしたような形をしている。色とりどりのルピナスはジェリービーンズを美しく飾り立てて積み上げたようにも見える。一太はあまりの嬉しさに食事中にワインの薀蓄を長々と話し出すソムリエのように話を止めなかった。
 聖子は一太の話を聞きながらルピナスのそそり立ったような姿をじっと見つめ潤った唇をぽうっと開けて右手の人差し指と中指を下唇に当てて優しくなぞっている。その姿は一太に「そのままルピナスを舐めだすのではないか」と思わせるほどで、いやらしさを思い浮かばせるほどの、とろりとした目つきだった。
 一太も思わず唾をごくりと飲み込み、喉が鳴ったような気持ちになった。いい気分で熱弁をふるっていた一太の背後から聖子を呼ぶ声がして聖子は行ってしまったが、その時の友達の会話が一太を腹立たせた。
「どうしたの聖子。あんな根暗そうな男と話して。呼び止められたの?止めときなよ。あいつ、なんかいつも聖子のことしつこく見つめてて変態なんじゃない?」
 背中で話を聞き、ぐっと握りこぶしを作ったほどだったが、聖子の天使のような言葉に心は飛び立たんばかりであった。
「これだけの美しい庭園を管理なさっている方です。中には栽培方法が難しい植物もありましょうに、見事に咲かせることができるのは、心根がお優しいからに決まっております。ですから悪い方ではないと信じております」
 一太は涙を流して崩れ落ちそうだった。今のセリフを録音して家で何度も聞きたい気持ちになった。もし手を取って今のセリフを言われたら一生我が身を犠牲にしてもいいと思わせるほどだった。破壊力満点。心は完全に陥落した。もう想いを止めることはできなかった。今なら十トン鉄球でも片手で受け止められそうな気分だった。
 それからというもの、寝ても覚めても聖子のことばかりだった。見かけない日や学校のない日は酷く落ち込むほどで、積み重なった想いはついに爆発し、ある日こっそりと聖子の後をつけていってしまった。聖子が入っていった家は大きな家だった。門があり、家まで数十メーターはあろうかと思わせるほどだった。聖子の家が巨大な庭園になっていそうなことは門から見える庭の造り方からして理解できた。
 そうしてしばらく日が経ち、ますます積み重なってくる想いに今度は壁を乗り越えて敷地に入るという危険行為にまで及んだ。思ったより壁が高く、木登りをしてわざわざ乗り越えなければならないほどだった。一途とはいえ完全な不法侵入、ストーカー行為には間違いなかったが、意に返さない。そんな一太が、敷地内で妙なものを見つけた。曇ったガラス張りのハウスだった。中で植物を育てていることはわかったが、随分多湿にするのだなと職業柄気になった。中に入れるのだろうかと入り口を探すと鍵はなく、すんなり入れた。もし誰かに遭遇したら言い訳は通用しないだろうが、一太にしては珍しく好奇心のほうが勝って自分が敷地内に入った目的さえも忘れていた。中は思ったよりも多湿で服が少しずつ湿ってきているのがわかる。花の香りとは別に魚とは違った生臭い臭いまでする。まるで熱帯雨林のジャングルに迷い込んだようだったが、見たこともない植物が栽培されている。せいぜい一太がわかったのは、ウツボカズラ、モウセンゴケ、ハエトリグサぐらいなものだった。
「食虫植物を栽培しているのか……」
 と歩いていくとラフレシアのような大きな花があった。花の中には水らしきものが溜まっていてよく見ると小さな骨まである。
「これもなのか……一体何を捕食するんだ……」
 一太は奇妙な空間に少し恐怖を感じるようになって、敷地内から逃げるようにして帰った。そして気になったことを家に帰って調べだした。夷隅。どこかで聞いたことのある名前だと、一太の脳裏に浮かんだ。夷隅聖子の父親は誰なのか。わかるまで苦労はしなかった。夷隅博志。植物細胞学の世界的な権威だった。代々学者の家系で聖子が通っている女子大の設立当初にいた学生が夷隅博志の曾祖母にあたり、その曾祖母は植物と人間の心理の相関関係を人類で初めて証明した植物神経学の名誉博士だった。
 一太は目の覚める思いだった。普通あまりの格の違いに尻込みしそうなものだが、一太は逆だった。「やはり自分が惚れただけはある」と前向きに捉え、ますます好きになるという始末だった。その夜は関係が前進したわけでもないのに、聖子の素性が多少わかってきて「理解を深めている」と勘違いをし、妄想を始めるのであった。
 由緒ある家系の金持ちの令嬢と恋仲になる、という妄想は男性の妄想の中でもよくあることだが、一太はより具体的だった。前にルピナスの説明をしていた時のなまめかしい聖子の顔を思い浮かべながら自分の雄肉を深々としゃぶらせ、育て上げた公園の花々の中でじっくりと聖子に性技を教えていくというものだった。
 妄想の中で聖子は既に一太を好意的に思っていた。
「このような場所でするのでしょうか。私、初めてで……あの、恥ずかしいです……」
 と公園の中一太に手を引っ張られる聖子は顔を赤らめて目を濡らし背けている。
 聖子は既にこれから起こることを予想していて肌の奥を濡らしていた。瞳は期待と不安に揺れ動きながらも股の奥の潤みを隠せないようにしっとりとしてきている。あまりに強く引っ張るので聖子が足をつまづかせて倒れ掛かってくるところを一太はしっかりと抱きしめる。
「大丈夫かい?聖子」
「ありがとう一太さん。もう、強引なんですから……」
 と言いながらも胸に寄りかかる聖子が顔を一層赤らめているのは伏せた様子でわかる。その顔をぐいっと手で優しくあげて唇を近づけると聖子は「あっ……」と小さな声を漏らしながら潤んだ瞳を閉じる。一太は上品に進めていくつもりはなかった。いきなり舌をねじ込み、聖子の舌を誘い込んで吸い上げる。耐えているのか感じているのか「あっ、あっ」と舌を吸われながらもだえる聖子の胸を鷲づかみにする。
 ブラウスのボタンをはじいていき、ブラのホックを器用に外す。一太が最後に女性と付き合ったのはもう十年以上も前になり、その時は自分で脱がせたわけではなかったので、現実ではうまくできないが、妄想の中ならお手の物だ。
 白い柔肌が零れ落ちる。しっとりと汗ばんだ乳房にはぷくりと腫れ上がったピンク色の突起が見える。硬くなった突起に向かってついばみしゃぶりつく一太は子牛が乳を求めるように荒々しい。舌をべろりべろりと出して突起の周りを舐めまわし、口の中で乳首の硬さを味わうように吸い込んで甘く噛む。まるで水に浮かんだ豆腐に顔を突っ込んで食い散らかすように音を立てて吸っている。そんな品のない貪りかたでも女神のような聖子は淫らな声を上げそうになるのをクッと唇を噛んで我慢している。羞恥が体中を舐めまわしているような気分に快楽の堕落を進入させまいと耐えているようだった。
 一太は自分がしていることで聖子が感じていることを知っていた。ちゅっと吸う力を込めると「あっ」と髪を振り上げる聖子。甘い香りが漂い一太の雄肉は膨張しきる。我慢しきれなくなり聖子を寝かせ、スカートの中からショーツを剥ぎ取る。もうそこまで来た時には「花畑」の設定も「性技を教え込む」という妄想も吹っ飛んでいた。
 聖子の花園からは満開に咲き誇った花畑よりも甘く淡い女の香りがする。一太は喉の渇いた犬のように花園の奥を何度も舐めあげる。既に花園はとろとろになり蜜であふれ返っていた。一心不乱に舐め続ける一太は秘密の味を覚えた淫猥な犬のようだった。じゅるじゅると吸い、漏れてくる液を逃さず舌で救い上げる。
「はぁっ、はあうん、一太さん、そんなに激しくなさらないで、ああうっ……」
 聖子の声に興奮と嬉しさを覚える一太は早く聖子の中に雄肉を突き立てていきたくなった。舐めるのを止めて聖子を見つめると「早く、早く入れてください。一太さん」とせがんでくる。たまらずあてがった雄肉を一気に聖子の中に挿し込んでいく。濡れた花園はするりと雄肉を吸い込み締め付けてくる。その瞬間「あああー」とビブラートな情けない声を上げて射精し、妄想は終わった。最後までするつもりが、あまりの気持ちよさにフライングしてしまったのだ。少しだけ後悔したが、一太は幸せだった。
 次に聖子を見かけることができたのは三日後だった。
「こ、こんにちは」
 と勇気を振り絞って声をかけてみる。三日間、まともに仕事が手につかず、花を見つめながら話しかけるほど重症だった。「あの人花に話しかけてない?気持ち悪いね」という声が何度も背中から上がったのだがまったく届かなかった。天体望遠鏡のような精度で聖子を公園で探していた一太がようやく聖子を見つけることができ、声をかけた時は全身の息を吐き出すようだった。
「あ、こんにちは。ごきげんうるわしゅう」
 とさりげなく微笑みを向けて通り過ぎた。一太はガクリと膝から力が抜けて地に突っ伏してしまいそうだった。現実はこんなものだ。妄想の中では好意的で楽しげな会話が繰り広げられるはずだった。そして「今度一緒にデートでもどうですか」と誘う一太の魅力的な申し出に顔を赤らめながら「私なんかでいいんですか?」と言う聖子を「そんな、僕にとっては世界一の女性とデートできるなんて幸せなんです」というところまでシナリオは出来上がっていたが瞬時に没台本となった。当然その後の「朝までフルコース台本」も没になった。手紙をもらって遠まわしに断られた事実など一太の情熱の前では焼け石に水だった。
 欲求が叶えられなくなると余計に叶えてみたくなるのが人情だ。妄想の中では何度も聖子を抱きしめ結ばれている。一太の性のテクニックの前に聖子の体は熟れきって肉汁を垂らし毎日のようによがっている。
――そのはずが。
 来る日も来る日も肩透かしのように聖子にかわされる。うまく話が繋いでいけず、もどかしい。なんと世知辛い世の中だ、と世の中のすべてにうまくいかないと思うくらい聖子のことでやきもきしていた。
 しかし一太に起死回生の機会がやってくる。聖子を思うあまり大事な書類を作成することを忘れていて遅くまで残っていたが、帰り際公園でカサカサと音が鳴っているのを聞き、近くまで寄ると女性らしき人がエキノプスというライチに棘が鞠状にできたような花をいくつも手折っていた。よく見ると青色だけ手折っている。
「ああ、何をするんだ!」
 と怒鳴りながらなおも手折ろうとする手を掴みあげると聖子だった。
「あ!せ、聖子、じゃなくて夷隅さん?」
 思わず妄想内の癖で名前で呼んでしまいそうになった一太は何故このような酷いことをするのか、あれほど優しそうに見える人が、信じられないような思いだ、と言うと聖子は泣き崩れた。
「この花を見ると思い出すことがあるのです。ですから、辛くて辛くて……」
 それ以上は言葉にならないようですすり泣くだけだった。どれほど深刻な事情なのだろうと気になるところだが、泣いている聖子の前ではたじろぐだけだった。男は惚れた女の涙に弱い。ようやく涙が収まった聖子は一太へ憂いをおびた瞳で見つめてくる。
「あの、このこと、どうかご内密にしていただけませんでしょうか」
 と聖子が口走った時、一太の中に邪悪な思念がよぎった。
「じ、じ、じ、じゃあ……」
 緊張のあまりどもってしまった一太は手に汗をかきだしている。
「はい」としおやかに胸の前で両手を重ね言葉を待つ聖子の姿にすらそそられる。
「ぼ、僕と、せ、セックスして」
「お断りさせていただきます」
 間髪入れず放たれた拒否という強靭な矢は一太の胸を貫き、湧き上がっていたはずの一太の邪悪な思念を一撃の下に葬り去った。一太は悪い意思を貫徹しきれるほど強い心を持ってはいなかった。一太の混乱は瞬時にして極限に達した。ついに妄想が実現できる機会がすぐ目の前にあるのにも関わらずみすみす逃すのか、という思いばかりが焦りとなって急き立てている。妄想の中濡れた唇で何度勃起した雄肉がしゃぶられたことか。妄想の中で何度濡れそぼった秘肉の奥まで雄肉を突きたてて精液をぶちまけたことか。しかし目の前の現実はこんなにも切ないじゃないか。一太は泣きそうなほどであった。
「どうしても?」
 ともう一度念を押して聞いてみると「申し訳ございません」と同じように拒否される。もう「相手の弱みに付け込んでセックスする」という目論見は吹っ飛んでいる。
「お願いします」
 今度は頭を下げてみたが結果は同じ。もはやこうなると歯止めがつかない。一太は聖子に手を合わせ、土下座をし始めた。
「お願いします。セックスしたいです。夷隅さんと一度でも、一回だけでいいんです。全部入れなくてもいいです。そうだ、先っぽだけ、先っぽだけでいいから、ほんと、ちょっとだけ、それ以上は何もしません。中まで入れません。だから、お願いします。お願いします」
 身も蓋もない言いように聖子は困り果てていた。土下座をしながら地獄の王の前で命乞いをするかのような必死ぶりの一太を眺めていると哀れにすらなってくる。聖子はため息をひとつつき「わかりました。先っぽだけというお約束なら。でも本当にそれだけです。それ以上はお受けできません」と一太にとって信じられないような言葉を一太の前に置いたのだった。
「え?本当?ホントに?え?ホント?」
 まるで前々から欲しかったおもちゃをプレゼントされた子供のような姿の一太に「ただし」と付け加えた。
「条件があります。場所は私のお屋敷にしていただきたいのです。万が一のことがあっても困りますから」
「はい。はい。もちろんです。どこへでも行きます」とはしゃぐ一太の妄想はビックバンを起こした。お屋敷に呼ばれるということは、公認の中になるということ。公認の中になったらデートもセックスもし放題。そのうち「娘と結婚する気はないか」なんてお父さんから言われ「もちろんです。一生幸せにします」と結ばれ、それからは「おい」なんて呼びつけて「舐めろ」とか「入れさせろ」とか言って性技をたっぷりと教え込んでいくんだ。と懲りない妄想を繰り広げるのであった。
 後日正門から堂々と入り夷隅邸へと執事が案内してくれた。その時使用人も数人見かけたが皆明らかに若かった。使用人の中に女性はおらず全員男性だったが改めて由緒ある家柄の凄さを肌身で感じた。
 玄関から大きなロビーになっていて圧倒されそうになる一太は飼い主に会う前の犬のように落ち着きがない。きょろきょろと聖子を探す仕草は挙動不審そのものだ。執事の後をついていき二階へとあがる。着いたかと思ったら通り過ぎるいくつものドアに待ちきれない想いが積み重なってきて息切れしそうなほどであった。
「こちらでございます」
 とドアの前で待たされる。
「お嬢様。真壁様がご到着でございます」
 映画やドラマの中でしか見たことのない世界が目の前にある。一太にとって途中にあったいくつもの装飾物や絵画など壁や天井の一部にしか過ぎなかった。これで聖子に会えるのだという気持ちと、既に頭の中で繰り広げられているめくるめく妄想に勃起しそうな勢いであった。
「どうぞ。お入りください」
 と中から声がすると執事がドアを開けて「ごゆっくりどうぞ」と通される。部屋の中は一太の汚い1LDKの部屋よりも遥かに広い。この部屋だけで4LDK以上にも相当する。途中には興味を示さなかった一太だが聖子の部屋となると違う。すべてが聖子の一部のような気分になってきて、床に頬ずりをしてもよいくらいになってくる。香水ではない香の香りがする。ミルクのような甘くやわらかい匂いだ。一太は先ほどから息を吸い込むために鼻息を荒くしている。聖子は屋敷にいるからといって中世ヨーロッパの姫君のような姿ではなくカジュアルな普段着だった。白いカットソーに薄紫のスカート姿でいたってシンプルだった。一太からすれば聖子のすべては輝いている。スカートから伸びるソックスへの白い素足もカットソーから見える胸元の白さも「こちらへどうぞ」と背を向けた時に見えた男の背筋をなぞりあげるような色気のうなじもたまらなくよかった。髪を頭の上で束ねている聖子はいつもとは違い大人の女の香りがする。このまま後ろから抱き着いて押し倒してしまいたいほど一太の欲望は火のように燃え上がってきている。
 一太の様子に最初から気がついていたのか、聖子は寝室までまっすぐに進んでいく。背中越しに顔を向けながら「本当は談笑などするところですが、そのご様子ですともう我慢できないようですね。お約束したこと、きちんとお守りしていただかないと、真壁様が後悔なさることになります。お破りなきようお願い申し上げます」と念を押してくる。
「約束?」と一瞬首を傾げたが「先っぽだけ」という約束だったことを思い出した。しかし我慢できるだろうか。本当に先っぽだけということはありえるのだろうか。何かの間違いで中まで入れてしまったら屋敷の者が全員駆けつけてくるとでも言うのだろうか。それよりも男一太、好きな女との約束すら守れなくてどうする。焦るな焦るな。そう言い聞かせていた。
 ベッドの前で服をするすると脱ぎだす聖子。下着もはらりと床に落ち、肉つきのよい尻と砂で削られた大理石のような滑らかさの背筋があらわになる。足のツヤも光がすべるようにすらっとしている。抜き去るように服を急いで脱ぐ一太は全裸になって近づいていく。
「もう少し、お待ちになって」
 一太を柔らかな言葉で静止させてベッドへとするりするりと足を運んでいく聖子の尻は左右にふわりと揺れて艶かしい。すっと走る尻の割れ目の奥には一太が夢にまで望んだ桃源郷がある。一太は想像するだけで雄肉をそそり立たせていた。
 ベッドの上に座った聖子はM字の足をゆっくりと開脚し、中指を割れ目に弦をなぞるように上下させている。薄毛の股奥の都は霧の晴れた峠から見渡すかのごとく、よく見える。あまり見比べたことはない一太だったが、ビデオなどに出てくる女性たちよりも毛の量が少ないせいで丸見えになっていると感じた。
 勃起した雄肉から血しぶきが勢いよく出るのではないかと思わせるほど脈打っている。
「ああ、もっとよくご覧になられてもよろしいのですよ」
 切ない吐息をもらしながら聖子は指できらびやかな門を広げていく。淡いピンク色の襞の奥はしっとりと濡れた桃の花が咲いている。一太には聖子の行為が哀れみなのか、同情なのか知る由もない。ただ妄想してきた以上のものが目の前に広がっている現実に興奮し、心臓の鼓動を打楽器のように叩き鳴らすだけであった。
 早く入れたかったが、ここはじっくりと見ておきたくもあった。
「な、舐めてもいい?」
 と聞くと「見るだけです」と言う。一太は目の前に下げられたにんじんを空腹で眺める馬のように息を荒々しく吐き出しながら、ぎりぎりまで顔を近づけて見つめた。
「ああ……」
 聖子が小さな吐息を漏らすたびにヒクヒクと桃花の肉がうごめく。小さな穴は雄の肉を締め付けたがるかのようにきゅっと時折締まる。一太の息がかかるたびに聖子の体にくっと力が入り乳首がぷくりと盛り上がってくる。雄に敏感な体は目の前の痴態を喜ぶように鳥肌を立たせていた。
 そのうち聖子のひくつく肉の奥から白い液が垂れてくる。見られて感じているのだと一太は思い出すと、中を貫きたい衝動が止まらなくなる。
「は、早く入れたいです」
 と一太の言葉に「ダメです。先端だけとのお約束でございましょう。守っていただかないと大変なことになります」とたしなめる聖子。
「大変なことになる」とはどういうことだろう。気にせず奥までガシガシ突いてやればきっと感じて自分になびいてくるに決まっている、という悪魔のささやきと大戦争を繰り返していた。しかし、そこは押しの弱い一太。ここはしっかりと約束を守れる男らしさを見せるんだ、と奮起して自らの雄肉を聖子の花びらへとあてがった。
 いざとなると困ることがあった「先端」とは、どこまでのことを指しているのか。亀頭はすべて入れていいのだろうか、それとも許されないのか。興奮しきって息苦しささえ覚える一太はあてがいながら悶えた。入れる前から悶えっぱなしの一太は細心の注意を払いながら雄肉を押し込んでいく。先端が少しだけ埋まっていく。聖子の肉の感触が少しだけ伝わってきて、一気に包み込んで欲しくなる。
「ああ、もうそこまでになさって」
 と聖子に言われた時にはカリ首にまでは届いていなかった。三分の二ほど聖子の中へ入り込んだ亀頭は力加減ひとつで中へと入っていってしまう。分娩する妊婦のように呼吸しながら荒れ狂った気持ちを落ち着ける。すべて入れてしまっては約束したことが水の泡になる。しかしこの状態ではどうしようもない。先端に伝わる聖子の肉の温度と感触を妄想で雄肉全体に広げて補っていこうと修行僧のように瞑想、否妄想の中へと深く入り込んでいった。
 一太の試みが続いたのは、ほんの数秒でしかなかった。聖子は一太の様子を見ながら顔を赤らめ瞳を潤ませて肌にうっすらと汗を浮かばせている。そのせいか一太の鼻を隠微な香りがくすぐり、肌の怪しくうねるような艶が目の奥にまで飛び込んでくる。聖子の花びらに埋められた先端はうごめく肉によって締め付けられているのがわかる。
「くっ……」
 これでは「絶対押すな」と書いてある押しボタンを目の前にしているようなものだった。歯を食いしばり、耐えろ、耐えるんだとはち切れそうな雄肉の欲望を抑え込む。もはや拷問だと言っていい。普通の男なら耐えられそうもない状態を必死に耐えようとする一太の想いは本物だった。一太が雄肉をビクンとさせると「あん」と小さく声を上げる聖子。
 聖子のいやらしい声が針となって欲望の風船を危なげになぞっていく。脳内は欲望で破裂しかかっていた。だめだ。これでは欲望に負けてしまう。約束を守るんだ。そうだ、何か話をすれば気がまぎれるはずだ。そう思った時、以前青のエキノプスだけを手折っていたことを思い出した。
「あの、どうして青のエキノプスだけを手折っていたのですか?」
 一太の言葉に明らかに悲しげな目の色に変わったのを見た。
「あれは、思い出すのです。子供たちのことを……」
「子供たち?」
 誰の子供だろう。「子供たち」というからには聖子のことだとは考えがたい。
「はい。詳しいことは申し上げられないのです。お父様から堅く口止めされておりますので」
 父親から口止めされているということは、愛人の子供たちということだろうか。悲しい思い出なのなら無理に掘り返すことはない。この場には似つかわしくない、ドロついた話なのだろうと判断した一太は、それ以上聞くことを止めた。
「はあん。ああ、入り込んできております。いけませ、あん」
 と聖子が声をあげる。思わず力が入って聖子の奥へと入り込んでいたようだ。じっとしているのももどかしくなってくる。せめて少しだけでも動きたいものだ。だが先端だけを出し入れするのも難しい。欲望は膨れ上がるだけでしぼむことはない。「ふう、ふう」と震えるように腰を動かしてみたが先端だけでは快感を得ることはできない。
 聖子は雄肉の振動に「くああん」と押し殺した声をあげ、ビクっと体を震わせた。だんだんと一太の欲望は理性を腐食させていく。なぜ自分がこうしていなければいけないのかわからなくなってきていた。もう先っぽだけ入れているじゃないか。先っぽも全部も変わらない。それよりか、全部入れたほうが気持ちいいじゃないか。聖子だって先っぽだけでこれほど感じている。全部入れて子宮の奥までかき回して肉を散らせた時の聖子の逝った顔はどんなのだろう。一度欲望の好奇心がむくりと顔をもたげると、堰を切ったように流れ出してきた。
 もはや一太ダム決壊間近と言っていい。ひびが入り込み、水漏れは既に始まっている。それよりも先端だけ入れた雄肉の先からは我慢した汁が放水されているだろう。白濁した欲望の液を聖子の肉の奥まで噴出させてやりたい。ぴっちりと張った乳房にむしゃぶりついて腰を思う存分ふって雄肉に牝の花を味あわせてやりたい。
 ダメだダメだと頭を抱えて前のめりに手をついた時、雄肉はぐっと聖子の中へと入り込んでいってしまった。その瞬間、一気に射精してしまいそうなほどの快楽が全身を襲ってきた。
 聖子の牝肉は待ち焦がれていたかのように波を打って雄肉にまとわりついて絞り上げてくる。
「くあああん。ああ、いや。お止めになって。早く抜いてください。お願、ああん」
 名器のような聖子のうごめきに一太は快楽に震え上がった。体をのけぞらせて汗を散らせるかのように感じ、髪をいやいやと振り乱している姿は欲望をさらに誘い出し、女の肉を支配しつくし味わってやりたいと思わせるには過剰なほどだった。
 一太ダムは決壊し盛り上がった欲望の濁流が理性という名の街を根こそぎ呑み込んでいくようだった。聖子の腰をがっちりと掴んだ一太は雄肉を深々と聖子の肉の奥へと埋めるために自らの腰を打ち付けている。粘液のくちゅくちゅとした音や男の袋が打ちつけられるペチリペチリという音を聖子は耳にしながら貫かれる肉の奥に注ぎ込まれる洪水のような快楽に頭を白くさせて喘いでいた。
 もう一太の頭の中には「約束」の欠片すら残っていなかった。快楽に鳥肌すら立ってくる。脳の中がじわりとあふれ返った快楽に痺れてくるようだった。まるで聖子の肉汁が牝肉からあふれるごとに媚薬を注ぎ込まれているかのように。
自分のすべてを注ぎ込みたいという衝動は止まらなかった。もう頭は聖子の肉の奥へ欲望の液を叩きつけることしかなかった。何度も貫かれ揺れる聖子は自らの乳房を揉みしだいてより快楽を貪っている。「ダメ、逝きそう。逝きそうです」と訴える隠微な聖子の姿に思わず一太は射精した。ドクリドクリと止まることを知らない精液のほとばしりは至福の時を迎え天界を解放したかのような高揚感だった。一太の意識はゆっくりと薄らいで白い光の中へと包み込まれた。
 一太の姿は次の瞬間なかった。少しだけお腹の膨らんだ聖子が、まだ逝った余韻に体を震わせているだけだった。
 ノックもせずに男が聖子の寝室へ入ってくる。夷隅博志の姿だった。
「お父様……」
 博志は聖子を見つめたまま何も言わない。何が起こったのかすべてわかっていた。ため息をひとつついて聖子に聞いた。
「またやってしまったのか。今度の人間は優秀なのか。使用人ばかり増えてもしょうがない。優れた遺伝子を残せなければな」
「申し訳ございませんお父様。堅くお約束しましたしきちんと守ってくださったのですが。人は弱いものですね」
「ふん」と鼻で笑い博志は部屋を出て行く。「うう」とうなって力を入れる聖子の桃花の割れ目からは大きな種がどろりと出てきた。
「真壁さん。約束をお破りになるなんて酷いです。でもこれからは生まれ変わるのです。また小さな赤子から人生が始まるのです。花をつけ、実をつけ、生れ落ちます。あなたはどんな花を咲かせるのでしょうね。でも、きちんと育ってくださらないと、お父様に嫌われてしまいます。嫌われて温室の植物たちに食べられてしまわないよう、しっかりと、育っていってくださいね」
 少し悲しげな瞳を向けながら聖子は種が大きなエキノプスのような花を咲かせることを思い浮かべていた。



テーマ : 官能小説
ジャンル : アダルト

原爆の日

昭和20年、1945年8月9日、同月6日の広島のウラン235型核爆弾「リトル・ボーイ」に続き、長崎にプルトニウム239型核爆弾、「ファット・マン」が落とされた。
長崎だけでも死者7万4千人、負傷者7万5千人とも言われる無差別大量殺人だった。
毎年長崎市松山町にある浦上川では、犠牲者を追悼する「万灯流し」が行われ、無数の魂のような灯篭が、犠牲者の無念の残り火のように流されていく。
父親はアッツ島で死に、長崎の実家にいた母親と弟たちは原爆で死に絶えた。アッツ島での玉砕を、当時ではとても誇り高いような言い方を軍部などに押さえられたメディアは報じていたが、今では父の死を「名誉の死」とは言わなくなった。
当時の長崎の状況は、細かくは思い出すことができない。
今でも思い出そうとすると、ひどくめまいがして、断片的な地獄だけが思い出される。
私は原爆の落ちた日、福岡に滞在していた。学徒すらもかりだされていた中、十九になったばかりの若造が兵役から逃れられたのは、毎日食べていたかぼちゃのおかげだった。
軍隊にとられる時には身体検査がある。その時にかぼちゃを肌に塗って、内臓疾患を訴え、運よく兵役を逃れた。その他にも、当時は病弱だったせいもあって、若干肺炎も患っていたせいで、酷く咳き込み、疫病が蔓延しては困るとの軍の判断だった。
精密検査をするまでの余裕はあちらにはなく、もはや大日本帝国は正常な理性や能力を失って戦争状態を続けていた。「玉砕」という言葉の中に、戦争にかりだされたら誰も生きて帰れないことは国民の誰もが感じていた。傍目にはいかにも病気である私が軍隊に入り、前線での惨状を見ることはなかったが、私の友人も数多くこの戦争で死んだ。
大日本帝国が全面降伏をしたことを知った時、大きな喪失感と、今まで生きてきた、今まで犠牲にしてきたものの虚しさと悲しみとを感じ、放心した。それからしばらくは、この国と友のために何もできなかった自分を日々恨んだ。戦争に行くことを嫌がったのに、死者を目の前にすると何一つ言葉を発せられない自分がいた。兵役を免れ、なんと卑劣な真似をしたのだと当時の若さを恨んだことも多々あった。時折、自分が犠牲にならずに大事な友を犠牲に捧げてしまったと後悔することが今でもある。しかしそのたびに「生きなければならない」と自分を奮い立たせてきた。
当時は原爆がいかなるものかもわからなかった。皆、ただの空襲ではないことがわかっていた。放射能の影響まで知る由もなかった。原爆を落としたアメリカでさえも、その影響を知らず、多くの調査員が降伏後現地に訪れたという。
助けに行った多くの人間は、放射能による二次災害で被爆し、中には死んだり、長い後遺症に苦しむ人間を多く作った。助ける余裕のないものでさえ、投下地点から離れたものでも、放射能の影響を強く受けた。
私が当事長崎についたのは、原爆投下から三日後のことだった。
壊滅との報を聞き、絶望的な気持ちで長崎に帰った私は、目の前の惨状を見て、家族はもう助かってはいないだろうと直感した。
どこが何かもわからない。黒く荒れ果てた瓦礫の荒野があった。
瓦礫の山で、街の跡形さえも消え去った光景に、地理感覚があるわけがなく、探すあてもまたなかった。何が起こったのかも理解できず、麻痺した理性で目の前を認識していくのが精一杯だった。
私が思い出せるのは、瓦礫の山と、焼けただれた死体の数々。黒く固まった死体らしき物体。そして、川辺で水を求めて死んでいる数多くのこげた死体。そして、完全に肉片の飛び散った瓦礫と同じように見える骨の欠片らしきもの。焼却しようと山になって焼かれている死体。そして焼却もできずに積み上げられた死体。死体。死体。死体。生き残った人々を救済しようと集まった救護班も、充分な体制がないために多くの命が消えていくのをなす術もなく見送るしかなかった。
むせ返るような異様な臭い。肉のこげた匂いや瓦礫の焼けた臭い。獣の腐ったような臭い。様々な臭いが街中を包んでいた。いや、もはやそれが何の匂いかもわからない。なんの匂いがしたのかもわからなくなるほどだった。
もはや、そこに立ち尽くすだけで家族を捜索するのは不可能に近いと思った。死体の山から、家族を見つけるのは無理だった。瓦礫の中から家族らしき欠片すらも見つけるのは困難だった。何度もその惨状を見ては吐いた。ものもろくに食べていない胃からは、胃液しか出なかった。内臓をひっくり返すような異様な臭いが嘔吐をまた誘った。
すべてが地獄だった。
断片的で鮮明な光景だけが今でも写真のように脳裏に浮かぶ。
爆心地の近くでは、そこにいるだけで死ぬといううわさが一部飛び交い、私は地獄から逃げるようにして福岡に戻った。もう、その光景から逃げたかった。私は逃げる途中で、農作業をしていた土臭い女に出会った。
農作物をかごに背負い、顔も土で汚れた女だった。私はようやくそこで生身の柔らかい肌を持っている生きた人間を見た気がした。極度の緊張状態にあり麻痺していた理性が、一気に生への衝動を感じ、湧き上がるような欲情を覚え、その女を犯した。
自分でも理由がわからぬほどに、ひどく生きていることへの興奮を覚え、自分の一物はこれ以上ないほどに硬く、そそり立っていた。妙な高揚感と、興奮から、嫌がり抵抗する女を手にかける幸福感が余計に私の獣のような衝動を駆り立てた。
抵抗する女の手首を掴みながら、力強く押し倒し、土の上で汚れながらも暴れる女の薄い農作業着を無理やり脱がし、乳房を荒々しく掴んだ。涙を流して泣き叫ぶ女に、より興奮を覚えた。その必死の咆哮に、生のうごめきを見た。
生きている。私は生きている。そして女もこの通り、人間で、ちゃんと生きている。
生きている女。生きている人間。喜怒哀楽を示す生身の人間を犯しているという快楽が、死者の世界から帰ってきた自分に、生と性の興奮を与え続けた。死臭のあとの、土の優しい匂い。女の体からわきあがる、かすかな甘い芳香。抵抗するごとに汗ばんでくる女の肌。無理やり脱がし、最後の抵抗を押し切って開いた女の股の間に一物を深くねじ入れる。女の中の熱が一物から伝わってきて、涙の出そうなほどに感動を覚える。力強く抱きつくようにして嫌がる女を押さえつけながら腰を懸命に振る。そしてうっすら浮かんでくる水玉のような女の額の汗からは、より甘い香りがして、私は女の唇をむさぼるようにして奪った。
まるで獣そのものだった。だんだんと自らがのぼりつめていく過程で、長崎で見てきた光景がフラッシュバックし、それと同時に自分の射精のイメージが重なり合った。女の背負っていたかごが地面に転がり、中からは採ったばかりのトマトが三つほど転げ出ていたのが見えた。そのひとつがつぶれ、破れた皮の隙間から地面に赤い果肉と汁を広げていた。トマトの青臭く甘い臭いが土に混ざり、血の匂いとだぶり、女をより血なまぐさく見せた。血の通った、女を犯していた。女の抵抗は徐々に収まり、やがて涙声が別の声へと変わっていった。
やがて女の中へと一気に射精すると、女も同時に体を震わせた。私の興奮が、少しずつ収まってくるごとに、自分が何をしたのかを冷静に判断することができ、そして取り返しのつかないことをしたのだと後悔した。女の股間からは、血が白い精液に混じり流れていた。
私の瞳からは罪の意識からの懺悔か、それとも女への苦痛を与えてしまった、常軌を逸した行為へのショックからか、涙があふれて止まらなくなり、私は今犯したばかりの土で汚れた裸の女に必死に、すまない、すまない、と謝っていた。
女は泥に汚れた肌で、優しく私を胸に抱き、頭をなでてくれた。その時に顔に触れた乳房の柔らかさとあたたかみ、そして聞こえる鼓動に、また胸の奥から涙をあふれさせ、嗚咽し、うわんうわんと子供のように謝りながら泣きじゃくった。
福岡に戻り、私はそこでちょうど敗戦を知った。何もかもが虚しくなる瞬間だった。周囲の人間は、噛み締めるように黙って敗戦の報を聞くもの、涙を流して悔しがるもの、各々の心中は複雑だった。失うもののみが大きい戦争だった。
終戦を知り、それからというもの、月に一度以上は犯した女の元へと通った。何度も謝罪し、また来ますと告げては、ひたすら謝り続けた。自分の行動に責任を取りたいと強く思っていた。最初は迷惑そうな顔をして、あからさまに嫌悪されたが、半年もたつと、とうとう折れた。名前をミツと言った。今、浦上川の「万灯流し」を私の横で見ている妻のことだ。
私たちは、戦争から何を学んだのだろうと、時折思う。もう、戦争をじかに知るものは少なくなり、平和の本当の尊ささえも、何か違った形で失われようとしている。戦争をしていなくとも、やはり不幸な状態で理不尽に人が死んでいくのは、平和とは言えないのではないだろうか。悲しいことだといつも思う。
私の命も、妻の命も、あと残り少ないだろう。あと、何年過ごせるだろうかと、毎年この灯篭が流れていくのを見ながらふと思う。
人の心が平和であろうとする。そして相手の心の平和を願い、思いやろうとする。そのような思いの集まりこそが、真の平和を約束する原動力に常になるような気がしてならないのである。
私は妻に微笑みかけ、また、妻も私へと微笑み返した。
灯篭は、闇夜の川に煌々と輝き、ゆっくりと流されてゆく。

テーマ : 官能小説
ジャンル : アダルト

孤独な魂への歌

 Mの「アルジ」だった男へと捧げる。



 小さな頃から一人だった。
 誰も、自分を理解できるものはいなかった。
「いいか、全部報告しろ」
 そうマミには伝えていた。

「お前は、俺のなんなんだ」
「ユウヤ様の奴隷です」
「その男と何をしてきたのか伝えろ」
「はい。ユウヤ様の言いつけどおり、しゃぶってきました。私は部屋に入ってきた男のズボンをすぐに脱がして、しゃぶって勃たせました。すぐに私も感じてきたので、濡れているあそこに入れてもらいました。入れているときだけで三回ほどいきました」
 マミの話を聞いて、渦巻く嫉妬の中に興奮を覚える。
 マミの頭をぐっと押し下げ、ひざまずかせてしゃぶらせる。
 マミは垂れ下がった茎をくちびるで拾うようにして、口の奥へと導く。
 すぐに卑猥な音が部屋中に満ちて、大きく脈打つ張り詰めた茎になる。

 この女もまた、俺と同じものを持っている。

 懸命に俺のものにしゃぶりつく顔を見ながら、孤独の影を感じ取る。
「そんなんじゃいけないぞ!メス豚が!」
 マミはしゃべることもできずに、より懸命に舌やくちびるや顔や手を使う。
 荒れ狂うような怒号を放っていると、自分が落ち着いてゆくのがわかった。
 マミは手を俺の袋にあて、揉みながら、片方の手は足をさすっている。茎は喉の奥に当たっていて、涙を流しそうなほど苦しそうに口内へと導きいれているのがよくわかる。
 愛する価値のある女だと思った。
 自分の色もなく止まった時間のような感覚の中で、不思議に惹かれるものをこの女に感じていた。
 射精し、一滴も残さず飲ませた後、すべての怒りが流れ出て、心の中の「色のなく止まっているもの」が、かすかにあたたまるのを感じた。
 まるで何も感じなくなった凍傷の指を雪にひたすらこすり付けてあたためることにも似ていた。

 お前にもし、なにがあっても、俺が受け入れてやる。

 いつだかマミに伝えた言葉を思い出した。
 行為が済むと、なぜか過去をマミに話したくなった。他のどの奴隷どもにも話す気すら起きなかったのに、この女にだけは話したいと思った。
 優しく抱きしめながら、穏やかな心でマミに話す。
 マミは楽しいのか、ニコニコしながらいつまでも聞いているので、ついつい俺も話してしまう。
 俺が自分のことを知って欲しいと思ったのは、この女が初めてだった。
 父親がいないこと、母親はスナックで勤めながら、日中もおらず、一人でずっと過ごしてきたこと、少年院の話、友人との話。
 時間はあっという間に過ぎ去っていった。
 マミに自分のことを聞かせるのが、楽しみで、もっとこの女を「俺の奴隷」にしてやりたいと思った。
 この女なら、本当に俺のことを理解できると、どこかで感じていた。
 たくさんの男と交わらせ、この女がもっともっと孤独で貪欲な奴隷になる姿を想像していた。
 その貪欲さが、俺の心の中の何かを埋めていく、そんな気がした。

 お前との未来を、どこかで夢見ていた。

 しかし、ある日を境にして、どこかマミの様子が違ってくるのを感じていた。
 前のように、この女から少しずつ孤独が消えてきているのがわかった。
 それはいつも通りにしているマミの内側から自然に出てきているものだった。
 俺の持っている、俺と合わさってきた、同じ色だったマミとは違う。マミの中には誰かがいる。しかも俺が知っているような快楽だけに従うような存在ではなく、いままでとはまったく異種のもの。直感的にそれを感じた。
 何度か突き放したことがある。
 奴隷として、命令に従わず、自分勝手に行動することを何度も叱責し、捨て去った。
 だがマミはそのたびに泣きながら許しを請い、俺の元に戻ってきた。

 俺が愛する唯一の女。

 俺は深夜にマミに電話をかけ、俺のところに来るように言った。
 マミは出会ったときに不安げに俺を見つめる。
 俺がいつもと様子の違う電話口だったことと、いつも出会うたびに行われる調教。どの不安かは俺にはわからない。
 だがどんな不安を隠しているのか、俺は暴き出してやると思った。
 俺はマミのケツをまくって、後ろの穴へと浣腸剤を突っ込んでやった。
 嫌がり抵抗を見せながらも従うマミの姿は、俺の知らない何かで満ちていた。俺が感じたこともない、俺がまったく触れたこともない、何か。孤独ではない何かとしか俺には例えようがなかった。だが、幸せそうなのはわかった。
 マミが少しずつ苦しみ始める。
「はっ…あうっ…」
 言うまでもなく、俺は真美の様子を見る。
「トイレに…トイレに行かせてください」
 マミが我慢しきれずに俺に頼む。
 俺はマミの中に誰がいるのか聞く。
「お前の今付き合っている男を全部言ってみろ」
「ユ、ユウヤ様に言われた男と、チャットで知り合った男やメールしている男が数人…お話している彼氏…」
 俺はマミの姿に苛立ってきた。違う。お前を本当に幸せにしている存在はなんだ。お前が本当に惚れ込んでいる男は誰だ。お前が惚れ込むほどの男は。お前を心から幸せだと思わせた男は。
「お、お願いです。トイレに、トイレに行かせてください。あ…ああぅ…」
 マミの瞳がもうろうとしてくる。マミの体も限界に来ているのはよくわかった。
「お前、まだ隠している男がいるだろ!誰だ!そいつは誰だ!」
「そ、そんな人はいません。ほ、本当です…だから、だから、と、トイレに、い、いか、いかせて…あ、あぅぅ…」
 マミに苦悶の表情が満ちてくる。だが、俺の心はどこかでいつもとは違う満たされないものを感じていた。もうお前は俺の奴隷じゃなくなったんだな。
「いや、いるはずだ。誰だ!メス豚め!吐け!」
 ケツをぶち、よりマミを追い詰める。
ケツがはじけたような音が一度響き、ついにマミが隠していたことを吐く。
「います!…うっ、うぅ…」
「会ったのか!」
「あ、会え、会える距離じゃ、ないんです…」
「お前そいつのことが好きなのか」
 もういつものような怒りはどこにもなかった。ただ、マミにその気持ちを確かめたいと思っただけだった。だが、いつも通りの俺らしくしたかった。
 マミは俺の質問に苦しみながらはっきりと言う。
「好きです!」

 お前が、そこまで想う男か…

 その後の言葉は、俺にとって重要な言葉でもなんともなかった。
 マミに「お前は奴隷として俺に仕える資格すらない。他の奴隷を探す」と伝えたことも、俺にとってはさほど重要でもなかった。いつも通りの俺。いつも通りの生き方だった。
 マミが液まみれの便を垂れ流す音をトイレで聞く。

 小さな頃から一人だった。
 誰も、自分を理解できるものはいなかった。
「いいか、全部報告しろ」
 そうマミには伝えていた。
 報告しなければ、あらゆる罰を与えた。
 だが、もはやお前は孤独から解放された。

 プレイが終わり、いつも通りの自分がいた。
 切ないとも、悲しいとも思わなかった。
 愛した女が目の前にいる。
 その女を目の前にして、俺は俺なりの気持ちを伝えた。
「幸せになれよ。マミ。お前はお前の幸せを掴んでいけ」
 驚いたようにマミは俺を見た。そんな言葉、一度もかけなかったな。言うはずのない言葉だからな。
 お前はもう俺とは違う場所にいる。だから、いいんだ。行けばいい。

 俺の、愛した女。

 マミの帰り際、俺が生涯で初めて、心の底から人へと思った気持ちを心に抱えて、言葉を言った。
「ゆっくり、おやすみ」
 自分でも不思議だと思えるほど優しい気持ちだった。
 マミは瞳を潤ませながら、俺へと言った。
「おやすみなさい」

 次の日、空は晴れ渡っていた。
 どこまでも透き通るような青を見ながら、たった一度だけ、マミの姿を想った。




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