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キャンドルナイト scene2 「雪の女」

 その男は妙な夢を見た。
 明日、死ぬ夢だ。
 轟々と嵐の音が聞こえる。
 街のビルに取り付けてある大きなスクリーンの天気予報では明日も吹雪らしい。
 激しく地面にたたきつける雪は容赦なく、つけられてすぐの人々の足跡を埋めていく。
 命の足跡を消していくかのように。
 アーケードの下でダンボールに囲まれ、毛布でかろうじてその日をしのぐ。
 今や男の生活は持ち直しようもなかった。
 日々の暮らしをわずか二三百円で生きていく男の体力はここ一週間、飽きずに続く冬の嵐に奪われていった。
 男の頭を過去がかすめる。
 結婚して妻もいた。男児にも恵まれた。順風満帆な生活は、不況と、そして少々の思い上がりで崩れた。それは時代の流れを思い上がりで見切れなかった男の過ちだった。
 痛感していた。男は、過ちを。こんな時代が来るとは。こんな生活に落ちぶれようとは。
 楽しかった日々もあった。あたたかな家庭生活や、子供の笑顔、妻の優しさ。
 しかし、妻は愛よりも、生活を優先させた。子供の将来を案じた。それもまた愛なのだろう。
 妻は、かつて社長だった男から離れて生活することを選んだ。
 男がダンボールの中で身を縮こまらせ、寒さに耐えながら目をぎゅっとつむると、ロウソクの灯りが見えた。五本だけ。
 五歳になる男の子のバースデーケーキの上に立てられた五本の小さなロウソク。
 晩婚だった男のその年のロウソクの数は五本だった。大きなロウソク、五本。
 息子と同じ年に同じ数のロウソク。お前はパパにすぐに近づいて追い越すだろうなと言った自分の言葉も皮肉にさえ聞こえてくる。
 何も恨んではいなかった。ただ彼女が、息子が、幸せに生きていくことを願っていた。
 最後まで、愛していた。そして今も。
 現在の時間はわからない。ダンボールの外で若者たちが酔っ払いながらギャイギャイと騒ぐ声が聞こえてくる。
 誰かが酔っ払ってなのか、ダンボールに倒れ掛かってきて潰す。
 男はそれで目を覚ました。
 外から声が聞こえる。
「うわ、お前きたねぇなー。そんなホームレスの家なんかに引っかかって」
 ギャハハハハ。
 数名がどっと笑って茶化しあう。
 男はダンボールの外に出ると、学生のような若い連中が六名いた。
「うわっ、出てきやがった」
「おい、てめえ見るなよ!」
 酔っ払っているせいか、若者たちも怖いもの知らずの様子で男をにらんでくる。
 ダンボールの一番傍にいた男が「ごみ野郎!死ねよお前」と男の顔を足蹴にした。
 正面から蹴られたため、男は鼻血を出しながら訴えた。
 しかし若者たちは聞く耳持たず、余計に面白がってあおりだし、最後には全員が加わって男をリンチにした。若者らにとって、価値の認められない他者の扱いなど、どうでもよかった。ただ自分たちが不愉快になった、という一方的な気持ちと集団の軽薄的なノリで限度なく飽きるまで蹴りつづけた。その間、通りかかる人間は誰も止めはしなかった。
 ぼろぼろになった男は全身の鈍さを感じた。痛みすらも麻痺するようなひどい打撲だった。
 男はきしむ音が出てくるかのような体を起こし、アーケードの外、まだ轟々と吹雪いている外へと歩き出した。命を、存在を軽んじられることほど辛いことはない。必死にしがみついていた最後の糸がプツリと切れて、生への終着は闇に消えた。
 深夜、人通りも少ない。男を見たとしても避けるだけだ。
 見知らぬ汚い男を誰も助けはしない。
 ふらふらと歩いて、男は公園のベンチに座った。
 もう、体が動けないほどに硬直していた。打撲した傷跡で、全身に突っ張ったような感触が体を固めてきてた。
 容赦なく叩きつけてくる雪が男を雪の彫像のようにしていった。
 その中で、男は妙に心地のいい眠りに誘われていった。凍てつくような痛みも、硬直してくるような打撲の痛みも、すべてに絶望したような心の痛みも、まるですっかり抜け落ちて空へ浮いていくかのように、体が軽くなる気持ちを覚えた。
 そして、男は幻なのか、女を見た。
 自分から離れていった、あの美しかった妻を。
 男は心から悔いる言葉を告げた。ひざまずき、涙を流し、お前を不幸にした悪い男だと。
 妻だった女はほほ笑みながら、男を抱きしめた。子供にも、悪い父親ですまなかったと伝えてほしい、と泣きながら訴えた。
 今でも、あなたを忘れずに覚えています。あなたを助けられない悪い妻でごめんなさい。私をどうか許して。
 妻の言葉は男を嗚咽させた。積年の悔やみを許された気がした。
 まるで周囲が光に包まれていくかのようだった。
 俺はもうダメらしい。お前の肌のぬくもりは一日として忘れたことはない。どうか、今日一日だけでも、お前のぬくもりを感じられたらと思っていた。ありがとう。こうして触れられるだけでも、俺はもう思い残すことはない。
 そう男は言いながら、女の手をさすっていた。あたたかくて、余計に泣いた。
 お前は、変わらない。でも少し苦労したようだ。俺のせいで、すまないな。この手は、俺が苦労をかけた分、やせ細ったようだ。
 女は首を振り、男を胸へと抱き寄せた。
 男は女の柔らかな胸の中へと吸い込まれていき、心がほっと安心する気持ちを覚えた。
 女は服を脱ぎ、柔肌の中へと男の顔を吸い込ませた。寒いでしょう。どうかあたたまってください。
 しっとりと汗ばんだ女の肉は、ぴったりと吸い付いて離れないかのように、男の肌を包んでいった。
 男は女の名前を読んだ。
 女は男の名前を読んだ。
 女が名前を呼ばれた時、女はほほえんだ。
 男が名前を呼ばれた時、男は涙をあふれさせた。
 男はその感涙と謝罪にあふれた心で、女の乳房に吸い付いた。まるで赤子のように、噛み付くかのように、女の乳房を求め続けた。舌を絡めるように、出ない乳を求めるように、音を立てて吸い込み、硬くなった乳首を這いずりまわった。
 女の息は荒くなり、男を余計に力強く抱きしめた。声を押し殺し、喘ぎそうになる恥じらいに抗った。
 男は窒息しそうなほどの抱擁の中で、涙を女の胸にしみこませていた。
 情けない男だ。お前の胸のほうがずっと涙にあふれているというのに、俺はお前の胸に余計に涙を擦り付けるなんて。ダメな男だ。すまない。本当にすまない。
 かろうじて告げた男の言葉に女は答えた。この世界でどれだけ愛しているかを。
 そして、たったひとつだけ大きな衝撃を与えた。
 ごめんなさい、一人子供の命を奪ってしまいました。あなたとの子です。流産になってしまいました。ごめんなさい。本当にごめんなさい。
 女の言葉に男は言った。
 大丈夫。俺が立派にその子は育てる。安心しろ。大丈夫。大丈夫だ。
 互いを掻き切るようなむさぼりあいが続いた。男の肉は女の奥を貫き、女はとろけるような肉の抱擁で男の骨までしびれさせた。唇は繋がり、舌は互いの口内で舐め回し合っている。
 言葉もなく、ただ激しい吐息とともに。
 愛だけが、飢えだけが、それを成せた。
 女は体を激しくくねらせ、男の愛撫と攻めをすべて受け入れた。
 男は女の底知れぬ抱擁に、狂うように、壊してしまうかのように激しく女を求めた。
 互いに二人は狂いあい、互いに二人は高ぶりを喜びあった。男は注ぎ、女は受け止める。
 濡れたままの裸体を引き抜き、互いの性器をしゃぶりあった。すべてを愛しみ、体すべてをぶつけたい一心で。
 乾いた犬のように、音を立てて水を飲みあった。
 互いの淫乱な気持ちさえも、高ぶりを見せ合って、枯れることなくあふれ出していた。
 男の肉もしなるどころか、ありったけの咆哮のように天へとそそり立った。
 女は頬張った肉をすすり上げ、絞り上げ、肉を刺激し、硬くなる男を唾液で塗り固める。
 男も負けじと女の穴に舌をねじり込み、抜き差ししては肉芽を吸い上げ舐め回す。
 抗い、喘ぐ。出てくる声に唇を噛む女。抑え、悶え、震え、漏れたように流れ出る汁。吸われ、音は響く。破裂し、淫らになる。またください。また貫いてください。お願い。欲しい。また奥まで入れて。
 懇願の涙は女の肉の裂け目から止めどなく流れる。喜びに満ちた涙を割いて、肉を突き入れる男。
 女を寝かせ、乳房を吸い、腰を振る。
 女は足で男を挟んで、絡み寄せる。濡れた肌同士がぶつかり合う音。あふれた女の汁は互いの股間を浸している。乳房から脳へと伝わる電流に、男の頭をしがみつくように抱く。
 女のしがみつきに頼りにされている気持ちを覚える。
 大丈夫。俺はここにいる。愛している。お前を生涯愛している。命尽きても、お前を愛している。
 心の中で女の名前を何度も呼びながら、叩きつけるように肉を突き入れ、奥へ当てる。締め付けて離さない肉の抱擁を乱せば乱すほど、より締め付けてくる。卑猥に叩きつけられる肉の音。
 届いた男の肉の先が全身を波立たせる。また来る。あれだけ果てたのに、また。
 二人の人生のすべては、今この瞬間に結集しあっているのだと言わんとばかりに、言葉もなく激しさを増していく。
 最後にぐっと突き入れた瞬間、男の肉の先からほとばしる熱い液。
 女は絡めた足でしっかりと男を挟み寄せながら勢いよく出る液を感じて果てる。膣を何度か絞り、男の液を吸う。漏らさないように引き抜き、四つん這いで男の肉を綺麗に舐めあげようと口をつける。
 しゃぶりあげる女の口は淫らな音を立てて吸い付いている。ふっと力を抜くと膣から男の液が漏れて白く垂れた。
 男は女を抱き寄せ淫らさの残る体で口付けをする。舌を出し合い、絡め、吸い合い、貪る。
 吸い上げる口が女の体に宿る愛情をすべて吸い尽くし飲み干そうとするかのように。
 枯れることはなく、飽きることもない。何度繋がり合ってもいい。果てても果てても、鎮火することはない。
 命をはじけさせて、今二人は血をたぎらせ、魂を燃え上がらせている。より、燃えてくる。
 ロウソクの炎が最後激しく燃え上がるように。
 淫らな口付けに、女の淫靡な灯火がまた宿る。
 どうしましょう。どうして私こんな。こんなに淫らになっていいの?ああ、また欲しいの、また我慢できなくなりました。あなたの太いもので、また私を喜ばせて、お願い、また幸せが欲しいの、お願い、お願い。
 女の懇願する言葉に男は答える。不思議と萎えることのない肉を最愛の情を持って女の裂け目にあてがう。
 俺もだよ、お前が欲しい、滅茶苦茶にかき回して、お前を壊したい、入れさせてくれ、貫かせてくれ、お前が欲しい、お前のすべてが欲しい。
 まぎれもない。世界の中心は二人で、世界のすべては二人で、重なり合う二人は、もう他に何もいらないほどの高まりをみせていた。
 男は滑り込ませるように女の奥へと自身を突き入れた。根元まで女の奥へと滑り込ませると男は猛り狂って激しく女の奥をかき乱した。
 尽きることのない思い。終わりのないリフレイン。
 男は思う。永遠にこの時が終わらなければいい。この幸せを終わらせたくはない。男は既に溺れていた。
 卑猥な音が響き、女の艶めいた狂い声が聞こえてくる。女の理性は既に弾けていた。二人は言葉を言い合おうとしたが、それさえも言葉にならなかった。
 粘着質な音が互いの声にかき消される。
 水が散り、肌にぶつかる音。
 しぶきが肌を濡らし、互いに吸い寄せる感覚。
 呼応しあい、かけあうように高まる淫らな叫び。
 ぶつかり合う肉の音が、離れたがらないように抱きしめあっている。
 絶頂に達しそうな高ぶりが二人を包み、慈しみの声が光のように広がり出す。
 男は天空の花園を見たような心地で、女の中へと射精し続けた。出る。出て行く。止めどなく。
 白く、白く、ほとばしる液を、聖母が受け止めていくようだった。
 男は白がどこまでも広がっていくような気がしていた。
 自分の命が解放されていくように、少しずつ体が浮いて白くなっていくようだった。
 女が溶け込んで、羽でも生えたかのように。赤子のように抱かれ、安らいでいくように。
 そして男は至上の光を見た。

 朝になり、ようやく吹雪は止んでいた。
 積もりに積もった雪は、人が歩くのも困難なほどだった。
 早朝の光が公園を照らす。
 足跡はなく、静けさが雪原の上を滑っている。
 光がビルの谷間から少しずつ広がり、雪原の上を走る。
 ベンチにいた男は、横たわっていた。
 真っ白な雪に包まれて、まゆのようになって、息絶えていた。
 まゆの中の男の顔は安らかで、子供のように眠っていた。
 今では、きっと自分の子供と会っているだろう。
 あたたかな笑顔で、あたたかな世界で。
 人が動き出す。
 街は動き出す。
 かすかに響いた孤独な命の声も、まるでなかったかのように。
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