湿度が高まっていく。
じとりと粘りつくように鼻の奥を臭いがつく。
二人はどれだけの時間そうしていたのか。
粘ついた液は混ざりあって声に消える音を立てている。
短い夜を一つの拠り所に、街明かりに気にもならない月明かりの下で、偽りの言葉を吐き合う。
それでもいい。だからいい。
明日には何も残らないからこそ。
日が明ければ互いの事情を背負って背を向け合う。
部屋を出て他人となる。
だからこそ今は。
子供のころに何度も夢見ていた「永遠」という言葉など、現実にかき消されて。
男は女の乳房に指を滑らせる。
おとぎ話を耳の奥へと囁きながら、湿度に蒸らされた女のしなった体を抱き寄せる。
汗の香りを味わおうと舌を這わし、記憶は別のものを呼び起こしている。
これを「裏切り」と呼ぶのかどうかわからない。
人の心は変わっていく。悲しいほどに、今も。
ベッドのシーツは乱れ枯山水を描いている。
水は女。山は男。
湧水のように溢れ出させる女は浮いては沈む。
男は源泉。
女のほとばしりを受けて吸い込む男。湧かせるは清水か汚水か。
燃えたぎる火山を手に持ち、女は柔らかな息吹で熱を加えていく。
水の奥の揺らめきよりも深いぬめりとぬくもりの中で。
女は踊る。悦楽の中で。
ワルツのように優雅に。
虚構のダンスを踊り、溺れて思考を遮る。
獣はいずこ。口付けの紅は胸に落ちるか。
傷を残したがる互いの命のみが掻きむしりあい、女は決別を胸に。
男は家族を忘れるための刹那の手段として女を。
いつかの、誰かの。
これからの、誰かの。
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