消防車のサイレンが夏の夜空に鳴り響いている。ランプの赤い点灯がカーテンを何度も横切る。部屋の中には二人の獣。肉を舐めあい食い合う獣がいた。
臭いを充満させ、すえた空気で部屋中を満たしている。朝から食べもせず何時間も絡まりあい、肉をしゃぶりあい、汁を肉体になすりつけあうかのように犯しあっている。
部屋から見えるほど近くの場所が燃えていた。焼け焦げた臭いが部屋の中まで満ちてくる。消防車の音がうるさく、窓を開けっ放しにする。
男が女の肉の中に自らを埋め込む時、ねちゃねちゃと危うい音を響かせながら喘ぐ。乳房が何度揺れたかわからないほどだった。
汁が床に広がり湖を作っていくようだった。男はその湖に住み着く海を知らない淡水魚。
窓の外へと声が漏れても喧騒にかき消され、すぐ近くにさえも届かない。
たとえ叫んだとしても誰にも届かないだろう。
男は女の太ももをぐいと押し上げ、肉を奥へとねじり込む。女の奥に当たり、汁が吹き付けられる。何度も緩んだ蛇口のように漏らし汚す女を、ネズミを掴む鷹のように離さない。いや、離れられなかった。
いつからあの家が燃えていたのかわからなかった。火が見えていたが、騒ぎも先ほどより静かになってきていて鎮火している様子がわかった。
男は女の湖の中で泳ぎ続けていた。陸にあげられ跳ね上がる魚のように女の中をのたうちまわる男はツンと硬くなっている乳房にしゃぶりついた。
女はまた溶けた声を上げる。いつまで続くのか、このまま狂うのではないか、いや、狂ってもいいのだ、いっそのこと、ここが世界の終わりなら、この女が世界のすべてならどれほどよかっただろうと男は思っていた。
湖の外など見に出なくとも、海に思いを馳せずともよいのだ。
女はぐちゃぐちゃにかき回される脳裏に、海を見ていた。この男との、果てない希望と甘い願望を広げていた。
しかし、叶わない夢だった。
湖が、海になることはない。
結局は鷹の爪に掴まれたネズミにしか過ぎなかった。
夜明けごろには、消防車もすっかり路上から消えて、焼け焦げた黒い家だけが残った。
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